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中編その2にするか、後編としてしまうか相当迷ったが、ここはあえて中編その2とさせて頂いて、まだ合宿を続けよう。 さて、色々なドタバタがあったUNOの後、一旦解散。各々部屋に戻ってくつろいだり、或いは勉強したり、また或いはリビングに残り談笑をしている。 「う~……」 と、唸り声を上げながら宛がわれた部屋のベッドに倒れこんだのはかがみ。枕に顔を埋めて唸り続ける。 どうしてもさっきのことが頭から離れない。 ――大好きっ!! 何も叫ぶ必要はなかった……そう思うと恥ずかしくて顔が上げられない。と、いうか何でそもそもあんな事を言うハメになったのか。 「こなたもこなたよ……なんか言いなさいよね」 かがみが叫んだとき、こなたは何も言わなかった。ただ、驚いたような顔をしていただけ。 だから、ただの罰ゲーム、まぁ、本来受ける立場にはいなかったにも拘らずやらされるハメになったわけなのだが、それを、こなたが何も言わなかったせいで罰ゲームと笑い飛ばせなかった。 「何であそこで黙るのよ……いつもみたいに‘萌え~’とか言いなさいよ……」 何でこんな気持ちになるのだろう?何で?何で?何で? 思い返されるこなたの顔、その細部まで完全に脳内再生できる。出来てしまう。 「く……こなたの、ばかぁ……」 理不尽。だけど言わずにはいられない。この気持ちの奥を覗けない。それを誰かのせいにしたかった。 いつも一緒にいるこなた。こなたが茶化して、かがみが突っ込んで。楽しい、毎日。 でも、最近ちょっとずつ変わってきた。何かに悩むこなた。それが最初。相談されなくて、落ち込んだ。 次は……何だろう?そういえば、みゆきに‘以心伝心’という言葉を使われた。あの日の電話、その時思った。これが以心伝心だと。言葉無しで伝わる、私達の関係。 そして、今日。‘ずっと一緒じゃん’こなたに電話で言われたのに部屋は別。ゲームでもチームは別。 「どこが一緒なのよ……私、今、一人じゃない……」 さて、そんな様子を扉の隙間から伺っていたみゆきは、深々とため息をついた。 「流石に、やりすぎでしたかね……」 こなたとかがみ、二人の恋を応援する為にと、持てる知識を使い、また、新たに獲得しながら、動いてきた。 チェスに例えて、駒を動かし、二人の距離――キングへの道は近づいた。そう思っていたのだが。思わぬところで返しの一手をくらったようだ。 「困りましたね」 頬に手を当て、考える。 こんなに回りくどくしなくても良かったのかもしれない。ただ一言「それは恋です」と告げるだけでも。 相思相愛の二人なら受け入れただろう。親友をここまで悩ませるのは、みゆきとしても辛い。 だが、とみゆきは頭を振った。軽くはない、軽くはないのだ二人の恋路は。 自分はどんな時でも二人の味方だ。でも、世間は?同性愛、それは少なくともこの国では異端視される。 だから尚更、二人には自分の力で乗り越えてもらいたい。親友だからこそ、敢えて答えは与えない。自力で恋だと気が付いて欲しい。 チェックは至るまでの道は自分がかけても、チェックメイトは二人で取ってもらわなくては意味が無い。 「何かないものでしょうか……」 誰にともなく呟いた。本当に、逆転を逆転させる一手……そんな都合のいいものは、とそこまで考えた時、微かに衣擦れの音がしてハッと振り返った。 誰か来る。そう思った瞬間、何故か、本能的に身を隠した。物陰からそっと、その誰か、を伺う。 (あれは、泉さん?) そう、こなただった。こなたはしきりに辺りを気にしながら、かがみの部屋の前まで来ると、躊躇いがちに、ノックした。 コンコン……ノックの音がする。起きたくは無かったが仕方が無い。かがみは枕から顔を上げた。枕には濡れた後。 「……誰?」 鬱陶しい、そう思いながら扉を開け、前に立つ人物を認め、固まった。 「こなた……」 「かがみ……」 こなたは、いつものこなたらしくなかった。物憂げに瞳を細め、視線は落ち着かず、手がせわしなく動いている。 「今、いいかな?」 聞かれ、是とも否とも言わず、こなたを招き入れた。もはや無意識の行動。何も考えられなかった。 部屋に入ったこなたは、やはり落ち着かず、口を開いては閉じ開いては閉じを繰り返し、5回目にようやっと言いにくそうに、 「えっと、あのさ、さっきの……あの、罰ゲームでのことなんだけど」 と言った。 「……何?」 思っていたより低い声が出て、かがみは自身でも驚いた、そして後悔した。こなたが、ビクッとしたから。 「いや、あの……」 オドオドしているこなたはまるで、天敵に出会ってしまった小動物。そんな印象をかがみに与えた。 「あのさ……さっき……」 あぁ、と、かがみは思う。いつものこなたらしくない。そうしたのは私か。それとも? そして、どうしてそこまで分かる?こなたらしいって何?私にとってのこなたって何? 親友?そう、親友。 ――大好きっ!! 親友なら、なんでこんな気持ちになるのか。これは親友に対する気持ち、それだけなのか。本人を目の前にしてなら、その奥を覗けるかもしれない。 かがみがそこまで思ったとき、 「さっきのかがみ……萌えたよ!!」 「はぁ!?」 外で二人のやり取りをハラハラしつつ聞いていたみゆきは、思い切り苦笑した。 部屋の中から、こなたの得意そうな声が続く。 「いやぁ、もう、あの大好きっ!!って言葉がさ、感情こもりまくり!!まさにツンデレ!!」 「ちょ……おまっ、わざわざそれ言いに来たのか?」 「そだよ~、だってあの後すぐにかがみ部屋に帰っちゃうんだもん」 こなたが頬を膨らませている姿が容易に想像できる。 「もう、ホントはあの場で萌え~って言いたかったんだけどねぇ、ま、そこは流石に自重したよ。ホントはゆーちゃんとみなみちゃんの罰ゲームだったしね」 「じゃあ、もしあの罰ゲームが私のだったら?」 「勿論、萌え~!!って言ったね。そのまま勢いでかがみんは俺の嫁とか言っちゃったかも」 「な、なによ、それ!!」 「ん~?何々、照れてんの?お~、愛いヤツめ」 「やめろ、触るな、暑苦しい!!」 廊下まで聞こえる大騒ぎ、全くいつもの二人の様子。 なんと言うか、もう苦笑するしかない。逆転の一手、それは本人達が持っていた。 (そうですね、元々はお二人の恋ですからね) 今回は出る幕は無し。さて、とは言えまだチェックはかけれない。 でも、それはそう遠くないことかもしれない。 「早く気がついてくださいね、泉さん、かがみさん」 みゆきは苦笑を微笑みへと変えると、騒ぎ続ける二人の声を心地良く聞きながら歩き出した。 1月12日・後編へ続く コメントフォーム 名前 コメント
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そして目の前にはベビードール一枚のこなたがいた わたしもベビードール一枚で、しかも二人っきりでこなたの部屋にいた なにをいってるのかわからないと思うけど私もどうしてこうなったのか今でもわからない とりあえず聞いてほしい それは朝こなたがいつもどおり皆と通学するために現れたときのことだったのよ ああ…今思い返しても、なぜそんなことに気づいたのか分からない 「おはようかがみん、つかさー」 「(こなた…何か悩んでる)おっすこなた…?」 「(おねえちゃんの様子がおかしい)?こなちゃんおはようー」 どうせいつものようにとりとめないことで悩んでいるのだと この時はスルーしたのよ? でもこなたに感じた”悩み”(主にわずかにアンテナが下がる)が気になった私は こなたがもし昼休みになっても悩みを解決できないでいるのだったら力になりたいと思ったのだ でもこの事をこなたに直接伝えることは無いと思った 昼休み、いつものようにお弁当をもって席を立つ 不定期に一緒にご飯をしようというみさおは今日は昼休みを部活の後輩と取っている 峰岸は私を見つめるなり、がんばってねと一声残して席をたって別の友達の所へいった いつもの後ろ髪ひかれるような思いはない 風向きは私に向いている!と言い聞かせ場合によっては酷い状況を共に頑張って行くことになるかも知れない こなたたちの下へ足早に向かった 「おーっす!!」 よお柊とかこんにちわ柊ちゃんなどと声がかかる もう一つの故郷みたいな感じかもしれない そんなことをかんがえた瞬間、いつものように席にいる人間を確かめなかったことを後悔した 「かがみぃーん♪」 後ろから腰に腕をまわして抱きついてきた生徒がいた 「うひゃあああっ」 弁当を取り落とさなかったのは奇跡だ 「こっこっこなたぁあ!」 「油断大敵だよかがみん。私がその気ならかがみの(ブラジャーの)ホックを外してみせる」 「外すな!もうー…外にいたのね。本当に油断してたわ」 ため息をつきながらこなたの手をとって机へと向かった ここで怒ったところで私の目的は達成できないのだから みゆきさんとつかさがにこにこと迎えてくれた 「戻ってきたらかがみがクラスの人の声に気をとられている感じがしたからさぁ ちょっとおどかしてみたのだよー」 「弁当おとしたらどうするんだ」 「そのときは私とコロネを二人でポッキーゲームのようにだね」 「コロネゲームか、やりにくいぞそれ…」 「かがみとならチョコレートでどろどろになってもいい!むしろそんなかがみを」 「はいはい・・・」 「こなちゃんどんだけー、そういえばお姉ちゃん今朝様子おかしかったよね?どうしたのー?」 みゆきがこなたにチョコレートについて逸話を披露している間につかさが話しかけて来た 「あ、気づいた?さすが(双子の妹)というか(つかさなのに)意外というか」 「えへへぇ」 頬を赤らめるつかさ それを見たみゆきがつかさを褒めている間に、このチャンスを有効活用することにした 「こなたが悩んでいるように見えたのよ」 もう高校三年のこの時期受験生に悩みは絶えないはずだ こなたにかぎってずっとそれは無いとも思っていたけれど こなただって受験勉強になにか悩み事ができることもあるかもしれない 実は進路希望にいい加減なことを出した後に私と同じ学校にいきたいと口頭で先生に言ったのは既にわかっているのだ 散々冷やかされたから もう…こなたったら…(赤) 「全裸待機について悩んでいたのだよ」 「ブハッ」 「「ゼンラタイキ?」ですか?」 「ゆきちゃんゼンラ・タイキって有名な人の名前?」 「…うーん、私もしりませんねぇ」 「あんた全裸待機って」 わかる人とわからない人、この差が一般人とおたくを分けるというのなら私は分からない人でいたかった さっきまでの蕩けた感情がどこにいったのかわからない うぅ、蕩けてないわよ!くっ 「そのまんま、ネット用語でさ、ヲタが待ちに待ったものを待つときにする作法のことだよ」 「まぁ、じゃあ全裸で待つんですか?風邪を召されたりしないのでしょうか」 「え、ええ?ゼンラ・タイキって全裸待機??どういうことぉ」 「なんでそんな事で悩んでいるんだ」 心配です等とみゆきとつかさが顔を見合わせているのを尻目に私はこなたと向き合った 「いやね、お父さんは昔やった事があるみたいだけど、わたしはないのだよ これでもヲタを極める一人として全裸待機したいのだけど 家にはお父さんやゆーちゃんがいるからね さすがに一人じゃ違和感ありまくりだからさぁ」 「つまり全裸待機できなくて悩んでいたのか。ば・か・も・のおおお!」 こなたの肩を掴んでがくがくとゆする 「あぁぁあぁ…だからかがみを誘いたいんだよ。」 「やるかぁああ!」 「お父さんが今日いなくてチャンスなんだよ!ゆーちゃんなら見られても… よくないけれど二人ならなんとかごまか…うわああ」 そして、二人だけのパジャマパーティになった 意外に強情なこなたは下着だけ、下着とぶらだけ、とハードルを徐々に下げて食い下がったのだ 結果はぱじゃまで新番組を待ち、そして鑑賞する会である さらにそのぱじゃまは新たに購入する 正装だからとはこなたの弁 「なるべくおそろいにしようよぅ」 お母さんと連絡をとった後、途中でみゆきとつかさと別れデパートへと向かった こなたは私の右腕をぎゅっと抱きしめながら甘えてくる 「せっかくだから一緒でもいいけれど、おい、なにえらんでんだ。それはちょっと大胆すぎないか?」 微妙に透けるベビードールを手にこなたは私を見つめていた 「やっぱりかがみはスタイルいいからね、なんだかんだいってダイエット成功したんだね」 「してないわよぅ」 先日成功で油断してもどった 「だ、だいじょうぶだって!今日のこと恩にきってかがみのお母さんとつかさにダイエットメニュー教えるからさー」 「我が家の台所がもはや主に二人だけになっているのも問題よ」 本当に私はなんで料理するとことごとくだめなのか我ながら本気で将来を心配している 「かがみには私とつかさがついてるから心配いらないよ」 「つかさにはいろいろ教えてもらったんだけれどいまだにあのお弁当よ?」 交代制でつくる弁当の中身は既に知られつくしている悲しいことだ 「かがみを嫁にするのはこの私だからだよ かがみに足りないものは私が全部もってるから 心配しなくていいんだよー」 会計をすませたこなたとデパートを出てこなたの家へ向かう 私は唐突なこなたの告白に熱をもったような頬と暴走したような心臓を抱えて こんどはむしろこなたに手を引かれるようにエスコートされてしまった 「ハッ」 「お、かがみ正気にもどったね」 泉家の玄関前で正気にもどった 「あれ…?買い物は??」 「もうおわったよー♪かがみってば真っ赤になって上の空で私にきがえさせられてるんだもの ずいぶん取り乱していたよねー」 かわいかったよ♪などといいながら心を荒らす小悪魔はいつもそばにいた 「ただいまー」 「お、おじゃまします」 「あ、お姉ちゃんおかえりー」 泉家でいつものようにお泊り会そして…冒頭の内容である 「どうかな?似合う?」 「うん、かわいいわよ…」 恥ずかしくて虚勢を張ることもできない こなたの部屋でわたしとこなたは… 「かがみもよくにあってるよ、とても綺麗だよ」 新番組みるのもったいないよね録画しているしといいながら私をベッドへ導く 「あ、ちょ…ま!」 いつもより弱弱しい私をひょいと抱えあげるとべっどにのせて座って見詰め合う 「一緒にねよう、いつかきっとかがみが自慢できる私になって見せるから 全裸じゃないけど、いつか一緒になれるときを全裸待機だね」 こなたは私のために受験勉強をがんばっていた 目頭があつくなる、今はまだ恋人未満だからいつものお泊り会のように一緒に眠るだけ でも薄手の寝巻きの分だけ近寄れた気がしてこなたを抱きしめて眠る 意識が落ちるときに感じた唇の柔らかさが大切な思い出になった コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-02-24 23 34 45) ベビードールww全裸より本気待機www -- 名無しさん (2009-07-27 12 29 12)
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 拝啓、泉こなた様 こんにちは。元気してる?いいこといっぱいあった? 手紙の書き出しって、こんなのでいいのかしら。 手紙なんて年賀状以外で書くのはホントに久しぶり。 最後に書いたのがいつだったのか忘れちゃうくらい。 この封筒や便箋を選ぶのだって結構苦労したのよ。デパートや本屋に行ったんだけど、レターセットってたくさんあるのね。 可愛いデザインのものやシンプルで格好いいもの、アニメのキャラクターもののレターセットとかも売ってて目移りしちゃったわ。 久しぶりに手紙を書く、って思うと凝りたくなっちゃって、選ぶのに随分時間がかかったわ。 べ、別に、こなたのために選んだわけじゃないのよ!単に見てるのが楽しくて…そう!一種のウィンドショッピングってやつよ! う~これを読んでるこなたの顔が目に浮かぶわ…きっと口元を猫みたいにしてニヤニヤしてるんでしょうね。でもって「ツンデレかがみん萌え~」とか思ってるのよ。 言っとくけど、私はツンデレじゃない! ああ~もう!手紙なんて書きなれてないから何を書けばいいのかわかんないわ。 大体今時手紙なんかよりメールをつかうわよね。 メールのほうが安いし手軽だしすぐに返事がもらえるし。あ、でもこなたの場合はそうでもないか。あんたの携帯は当てにならないからね~携帯してない携帯電話ってどんだけよ。 でもさ、私は結構手紙って好きなんだ。メールは確かに便利なんだけど、あくまで通信手段で、手紙はそれ以上に心が伝わってくるような気がするの。 私さ、小さいころ遠くに住んでる友達と文通してたことがあるんだけど、当時は家のポストを見るのが毎日とっても楽しみだったの。 ポストを見て、私宛の封筒が届いてたら、なんだかすっごく嬉しくなった。 この手紙にはどんなことが書いてあるのかな?早く読みたいな。返事はどんなことを書こうかな。 そんなことを考えながら、わくわくしながらペーパーナイフで封筒を開けるの。 そして返事をポストに投函して、次の日にはもう相手からの返事が待ち遠しくてたまらないの。 それに手紙って、いろんな人の手を経て私達のところに届くんだよ。 まずポストに投函されて、それを郵便局の人が回収して、仕分けされて、送り先の郵便局に送られて、また仕分けされて、配達の人が届けてくれる。 そう考えるとさ、手紙ってあったかいな~って思わない? なにより手紙は、メールと違って書くことをじっくり考えられるでしょ?だから、普段言いたいけど言えないようなこととかも、手紙なら伝えられると思うんだ。 大事な事だから二回言うけど、私はツンデレじゃないよ。 でもね、いつもこなたに素直になれないでいるのは本当。 私は昔からそうなんだ。 強がって、意地張って、素直にありがとうって、言えない… でも、こなたの前では素直な女の子でいたいの。 だからこれは、その第一歩。 私はこなたに、ありがとうって、言いたい。 いつも仲良くしてくれて、ありがとう。 そばにいてくれて、ありがとう。 私のこと好きになってくれて、ありがとう。 なによりこの世界に、いてくれてありがとう。 これからも、ずっと、私のそばにいてね。 大好きなこなたへ ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「大好きなこなたh」 「だああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 家中にかがみの叫び声が響き渡った。 「こなたぁ!人の手紙を勝手に読むなぁ!!」 かがみの家にこなたが遊びにきた。 かがみが飲み物を取りに部屋をでたほんの僅かな時間に、こなたは机の上にあった自分に宛てた手紙を発見し、好奇心には勝てず読んでしまい、その瞬間をかがみに見つかってしまったのだった。 「返せっ!」 かがみはこなたの手に握られていた手紙をひったくった。 「いいじゃん、宛名は私になってるんだから私に出すつもりだったんでしょ?」 「そうだけど……でもイヤなの!!」 「う~ん、内容が内容だからねぇ~」 「っ////」 「でも嬉しいよ、かがみ」 耳まで真っ赤になって言葉を詰まらせたかがみに、こなたは優しく言った。 「な…なにがよ…」 ぶっきらぼうに答えるかがみの背中にこなたはそっと抱きついた。 「私、ずっとかがみのそばにいるよ…かがみのこと、大好きだから」 「……ばか……」 「この手紙、もらっていい?」 「………うん」 今日は郵政記念日。 1871年(明治4年)の今日、それまでの飛脚制度にかわって、郵便制度が実施されたのを記念して、1934年(昭和9年)に制定された記念日。 この日から1週間を「郵便週間」として、郵便業務のPR活動などが行われる。 ラブレターにありがとうの気持ちをこめて、かがみからこなたへ コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-10-10 12 58 46) 私も欲しい! -- かがみんラブ (2012-09-18 22 52 34) 激しくGJです -- 白夜 (2010-04-25 23 55 56) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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いふ☆すた EpisodeⅡ~静かにツルの切れる音~ なんだろうこれは。 それはふわりと、唐突に現れた。 私は足元に落ちたそれを拾い上げ、顔の前まで持ってくる。 何のこともない普通の白い封筒だ。 私はついさっき学校に着いたばかりで、今、自分用の下駄箱の前で立ち尽くしている。 私の下駄箱から落ちてきた、それ。 裏返してみると、とても丁寧に書かれた文字で、 「柊 かがみ 様へ」 と書いてある。 うん、間違いなく私にだ。 …でも、このシュチュエーションってもしかして… 「あ、お姉ちゃん!?」 私の近くまで寄ってきたつかさが声を上げた。 「それってもしかして…ラブレター!?」 そう、それだ。 好きな人に愛の告白をするために、想いを書き留めて下駄箱なんかに入れるという代物だ。学園モノのラヴシュチュではもはや定番で、使い古された小道具。 「初めてみたよー…」 私も見たのは初めてだ。 まさか、こんなものが私宛てに届くなんて考えもしなかった。 「すごいねぇ。…ねぇ、お姉ちゃん、空けないの?」 つかさは興味津々らしい。 まあ姉妹でいままで隠し事なんてあんまりしなかった仲だし。 別に見られても問題はないけどね。 でも… そこでふと、違和感を覚えた。 こんな事態を、ひどく冷静に受け止めている私がいる。 普段のわたしならもっと驚いたり照れたりしてもいいはずなのに。 多分、わたしはこなたのことが好きだからかな? だから、他の人に好きって言われても、揺らぐことがないのだろうか。 私たちは入り口の近くを避け、普段は死角になっている非常階段のあたりまで来て、手紙を開けた。 ここなら誰も滅多に立ち寄らない。 これ以上、ギャラリーが増えてしまっても困るから…っていうのもあるけど… でも、一番の理由は、遅れてやって来たこなたに手紙のことを知られたくはないからだ。 私は封筒に張ってあるシールを切り、中に入っていた手紙を取り出す。 つかさがその行為を、まるで自分宛てに来たもののように、本人よりも高揚した顔で見つめていた。 「ね、ね、なんて書いてあるの?」 「つかさ、落ち着きなさい。 今見るわ。えーと…」 広げられた手紙をつかさから遠ざけ、縦に二つ、三角に折りなおす。 これでいっぱいまで顔に近づければ、横からは紙と私の頭が邪魔になって他の人は見ることが出来ない。 「あぅ、お姉ちゃ~ん」 つかさからの抗議の声が聞こえるが、この子は嘘を付くのが下手だから、何でも周りに話してしまいがちなのだ。 「まずは私に読ませてよ」 「…うん」 つかさのしぶしぶの了解を待って、私は手紙を読み始めた。 手紙の内容は非常に簡素なものだった。 まず、私の名前があり、そして、伝えたいことがあるという風な内容。 そして告白の場所の指定、時刻は夕方。それから… 差出人の名前が書いてないのは、自信の無さの表れか。 ただ、文面や字体の丁寧さに、私は伝わってくる人柄の良さが感じられた。 「どうだった?お姉ちゃん!」 急かすように食いつくつかさ、ホントに興味があるらしい。 「どうって… 話があるから放課後会いたいって内容よ。 相手の名前はわからないけど…って、何よその顔」 「お姉ちゃん、それ絶対告白だよ! で、どこどこ?どこで告白されるの?」 「つかさ、声が大きい。 てか、まだ告白されるって決まってないわよ」 「あ、そっかぁ、果たし状かもしれないもんね」 こんな果たし状なんて、あるか!!っとこなたに対するノリで叫びそうになった。 この妹は相変わらず… 「ったく。場所は…… うん、体育館の裏ね。あそこなら部活の人以外、あまり立ち寄らないし。 死角も多そうだしね」 「お姉ちゃん…どうするの?」 「 … 」 その答えはまだ自分でも出してなかった。 良い人そうなだけに、私が来なかったことで、傷ついてしまうかもしれないし… ずっと待つ片思いの辛さは、私が一番理解できた。 「つかさ、お願い。 このことはこなたには黙ってて。 あいつ…からかいに来そうだから…」 「やっぱり行くんだね…?」 さっきまでのテンションはどこに行ったのか。 つかさは寂しそうにそう言った。 … 一限目の終わり。 「やふぅ~! つかさ、みゆきさん、おはよー!! 泉こなた、只今参上だよぉ!」 「あ、おはよ~ こなちゃん」 「おはようございます。泉さん」 私は持てる限りの元気で、いつものみんなに挨拶する。 そこにかがみがいないのは残念だが、仕方ないね。 わざわざ朝の挨拶をするためにかがみのクラスに行くわけにもいかないし。 「…でも、こなちゃん、お早くはないよね。 おそよ~、かな? 今日はどうしたの~?」 「いや、寝坊したのもあるんだけど、 朝の用意に手間取っちゃってね? 結構遅い時間に出ることになっちゃたから、 ついでに一限目の授業をサボっちゃおうかなと。 一発目、歴史だったからどうせ寝ちゃうし出ても一緒だからね」 「ははは…、こなちゃん、それ絶対、黒井先生とお姉ちゃんに 言わないほうが良いよ」 「ふふ~んそれはもう抜かりないよ。 言わなければバレないしさ。」 高らかに宣言する私の背後に、黒いものが近づいてきてることに、その時私は気付かないでいた。 「だぁれぇが、抜かりないんやて~?」 「ひぃ!黒井先生!?」 「泉ぃ、聞かせてもろうたでぇ。 ほうかほうか、自分、そんなに説教くらいたいんか。」 「先生、目がマジ怖なんですけど」 「うるさい!泉!!昼休みにウチん所に来い! 説教や!!楽しみに待っとるでぇ~」 「あぅぅぅ~」 黒井先生が嵐のように去っていく。 まったくなにをしに来たんだろう。 まあ、問答無用の鉄拳制裁がなかっただけましだけど… うぅ~、これでかがみとの楽しいお昼休みが減っちゃたよ… 「大丈夫ですか?泉さん…」 「こなちゃん、ドンマイ…」 私は朝から続く、あまりの不幸に、その場に泣き崩れてしまいたかった。 … 昼休憩。 「うぅぅ、ただいま~」 「お帰りなさい、泉さん」 「お疲れ~、こなちゃん」 ふらふらとした足取りで、お説教から無事生還を果たした私を、みんなが迎えてくれた。 「なんだか、今日の授業の範囲を、自分なりの考察を交えて ノートにまとめてもってこいって言われたよ。 それも、明日までに」 「う、それは私には手伝えないかな~?」 「ふふ~ん、私はつかさになにも求めてないヨ」 「あぅ! ひどぃ」 「だから、かがみ~ん。勉強おしえて~♪」 ………返事がない。 あれ?そう言えばかがみはどこ? 「つかさ、かがみ来てないの?」 なぜか…つかさは俯いた。何かをいいにくそうな顔。 もしや…かがみになにかあった!? 「かがみさんは今日はコチラにはおいでにならないそうでして」 「え?あ、そうなの?」 なんだ、かがみは来れないだけか。 でもなんで、つかさは思わせぶりな態度をとったんだろう… つかさはかがみと一緒で嘘はつけない子。 こういう態度をとったときは必ず何かを隠している時だ。 「ときにつかさ?」 「ひゃぅ!な、なにかな?こなちゃん」 肩を跳ねさせてから返事をする。絶対何かあるね。 「私に何か伝えることがあるんじゃないかな? 例えばそう…」 つかさの喉がごくりと鳴る。 「…かがみに何かあったとか!」 「あぅ!なな、なんでわかるのぉ? こなちゃん、実は見てたとか?」 ミッションコンプリート。犯人はアナタだ。 ゲームとかの推理モノの犯人も、このぐらい簡単に出てきてくれたらね。 でも多分、私はそんなゲームはやりたくないけど。 さあ、なにかあったことだけはわかったし、あとは、何があったのか聞くだけだね。 「んふふ~、感だよ、感! さあ、ここまできたら白状してもらうからね!」 「あぅ~、お姉ちゃんに怒られちゃうよ~」 「かがみには上手く言っとくからさ。なになに」 「かがみさんに何かあったんですか?」 「うぅ、ゆきちゃんまで…ヒドイ。 わかったよ。言うから…ゴメンネ、お姉ちゃん。 お姉ちゃん、今日ね、ラブレターをもらったの」 「「 えぇっ! 」」 私とみゆきさんの声が重なった。 かがみがラブレター? 一瞬、視界が白くなる。心臓の音がやけにうるさい。 「こなちゃん、大丈夫?」 「!」 つかさが心配の声を上げる。 まずい、顔に出ていたか。 「い、いや~。 かがみんにもついに春が来たか~」 私は笑ってごまかした。 大丈夫、ココロを誤魔化すのにはもう慣れてる。 「で、かがみはどうするって?」 声が震えるのを必死に隠した。 「まだ、決まってない…ていうか これから告白を受けるみたい。」 「どこで受けるの? 場所は?いつ?」 「ダメだよこなちゃん、行っちゃダメ」 「え~、いいじゃん。 かがみの一世一代の告白シーンなんだし 見なくちゃ末代まで笑いものだよ」 声のトーンはいつもの私だったけど、もしかしたら私、 顔は笑っていなかったかも知れない。 その証拠に、つかさが私を見ながらすこし怯えている。 何でだろう。いつもうまくやっていることが、今日に限って出来ない。 「お姉ちゃん、 こなちゃんには見られたくないって言ってたもん」 「そ、そうなんだ」 かがみからの拒絶。私「には」みられたくないなんて… とたんに弱気な私が顔をのぞかせる。もう、だめだ… 「 普段の私 」が演じきれな… 「私も…興味があります。つかささん」 「え、ゆきちゃん!?」 援護は思わぬところからやってきた。 「告白の場所、教えていただけませんか? 私、お恥ずかしながら、告白シーンを生で見るのは 初めてでして… その…もしもの時の参考に出来ればな、と」 すごく意外だった。みゆきさんって色恋沙汰に興味があったんだね。 もしかしたら、みゆきさんのことだし単なる知識欲かもしれないけど… あえて言わせてもらおう、みゆきさんグッジョブ! 折れかけていた私のココロは、みゆきさんという強い味方を得て、再び蘇る。 「つかさ、お願い!」 「あぅ、も~…ゆきちゃんまでこなちゃんの味方だなんて。 …わかったよ。教える、けど… あとでお姉ちゃんに怒られる時は一緒に怒られてよぉ」 「うん、みんなで怒られようよ」 「ふふ、そうですね」 … 放課後の学校。体育館の裏手。 私たちはかがみが来るのを待っていた。 「夕方って言ってたから多分、放課後のことだと思うけど、 具体的な時間は言ってなかったから…」 私たちはホームルーム終了と同時に、かがみのあとを追いかけるべく、すぐさまかがみの教室へと向かった。 「あぁ?なにやってんだぁ、お前ら。 かがみ? あぁ柊なら終わったと同時にどっかに すっ飛んでったぜ? ちびっこのとこにいってないのか?」 かがみのクラスメイトの、日下部みさおがそう告げる。 遅かったか。 私たちは仕方なく、体育館で待つことにしたのだが… 「こないねー」 もうそろそろ五時半になる。 閉門の時間が六時だからもう来てないと間に合わない時間だ。 「…電話してみよっか?」 「おこられちゃうよ?」 「でも、このまま待っていても仕方ありませんしね」 … ―放課後の学校。 夏のぬくもりを感じさせる。そんな気持ちのよい風が、私の薄紫色の髪を揺らしていた。 ここは放課後の屋上。 つかさには悪いけど嘘を付かせてもらった。 ホントに正直なコだから、多分、隠しとおせないだろうし、こなたに問い詰められると、嘘は付けないと思ったから。 ごめんね、つかさ。 だって、ホントに見てほしくないんだもの。 こなたの追跡を逃れるために、約束の時間よりもかなり早くについてしまっていた私は、屋上の備え付けのベンチに腰を下ろして、ただ、色が変わっていく空の様子を見つめていた。 告白…かぁ… こなたに出会う前の自分だったら、たぶん、喜び勇んで飛びついただろう。 昔からひそかに恋愛というものに興味があったし、恋人なんて言葉に憧れを抱いていた。 だけど、今の私はひどく陰鬱で、どうゆう風に答えようかと、ず~っと頭の中で考えている。 いや、告白に対する答えなんてもうとっくに出ているはずだ。 私が悩んでいるのはそうゆうことじゃない。 …ふぅ~… お決まりのため息は空に融けていく。 いまから来る人物は多分、男性。 そして、女性である私を好きだと思ってきてくれるんだ。 これが普通の恋なのだ。 改めて、私の抱いている想いが異端であると、そう気付かされてしまう。 うらやましい… 普通に好きになって。 普通に告白が出来て。 普通に幸せをつかむことが出来て。 私はたまたま女性を好きになったというだけなのに、そのすべてから否定をされる。 想いの強さでいうのなら…同じ恋だというのに、だ。 つかさには伝えてなかったが、あの手紙にはもう私への想いが書いてあった。 正真正銘のラブレター。 私を好きだという、名前も知らない彼。 彼は、今からやり遂げるんだ。 今の私には絶対出来ないこと。 最愛の人への…愛の告白を……。 その時、屋上の鉄の扉が…今、静かに鳴った。 … ―プルルルルルルル… ドキ、ドキ、 ―プルルルルルルル… 早く出て…かがみ。 ―プルルル…ガチャ 「 何?」 かがみへと電話が繋がった。 焦るな、私。 「や、やふぅ~かがみ様。元気~?」 「…開始早々、ケンカをうってんのか?」 「いやいや、あのね? え~と…かがみ様って、今どちらにいらっしゃる?」 私はストレートに聞いてみることにした。 今、私の近くには、つかさとみゆきさんが、私の携帯電話に耳を近づけて、かがみとの会話を盗聴している。 「…つかさ、あんた話したわねぇ!」 「ひゃう!何で居るのがばれてるの?」 「やっぱり…」 つかさの声が届いたのか、かがみは落胆のため息をつく。 「ごめんなさい、かがみさん。私がお願いしたんです」 「な、みゆきまでいるの!? はぁ、アンタ達はそろいもそろって…」 「「「 ゴメンナサイ 」」」 三人の声がハモった。 「でさ、かがみん今どこにいるの? 体育館のうらでずっと待っていたんだけどこないからさ」 「いま?あぁ今は駅のホームにいるわ。 もう少しで電車が来るところ。…あ、来たみたいね。 じゃあ切るわよ。」 「あ、ちょ、まって!どうゆうこと?こ、告白はどうなったの? 受けたの?断ったの?」 「…告白はされたわ。なかなかやさしそうな人だったし、 手紙のイメージにピッタリの人だったわ。 私たちと同じ学年の人で、顔は知らなかったけど、 向こうは私のことをずっと知ってたんだって」 「…で、どうしたの?」 「…そんなの決まっているわ…」 心臓が早鐘を打つ。 かがみに伝わってしまうのではないかと思うほど、大きな音で。 「…別に、断る理由なんて、ないじゃない…」 ―Pi、 「―かがみ!?」 台詞とともに回線が切れた。 断る理由がないってことは、やっぱり… 私は携帯をもつ左手を、弛緩させるままにだらりと下げた。 顔が無意識のうちに俯く。 「泉さん…」 「こなちゃん…」 「 … 」 …なんだこの空気は。 親友に恋人が出来たんだ。もっと祝ってあげなくちゃ。 …祝って、あげなくちゃ…いけないのに… 「―ゴメン、二人とも!」 私は次の瞬間、駆け出していた。 「あ、泉さん!?」 二人との距離が離れていく。 ただただ私は早くあの場から逃げ出したかった。 二人には、おかしな奴だと思われたかもしれない。 でも、ずっとあそこ居たとしたら、私は多分、みんなの前で泣いていた。 ずいぶん前から覚悟はしていたのに。 いつかはあることだと、理解していたはずなのに。 私の覚悟とは別に、 私の身体も、 私のココロさえも、 その時になって私の全てが、私の意思を聞いてはくれなかった。 …悲しかった。 両手で、口からもれる嗚咽を塞ぎ。涙はまぶたで必死にこらえる。 かがみに会ってか、私は人間的に強くなれたような気がしてた。 だから、いざというときでも、私はきっと笑ってられると信じられていた。 でも、それは私のただの妄想で。 結局はあのころとなにも変わっていない私が居たことに。 そしてなにより、かがみに彼氏が出来たことを、一番に喜んであげるべき親友の私が、こんなにも沈んでて、笑ってあげられないなんて… そのことが、私はただひたすらに…悲しかった。 だから私は涙を出す代わりに。 何かを叫びたくなる代わりに。 ひたすらに走った。 ひとしきり走っただろうか、私は校舎内のトイレの前で立ち止まる。 涙こそ流さなかった私だが、鏡に映りこんだ瞳を赤く充血させている私の顔は、ひどく醜いものに見えてしまった。 少し落ち着きを取り戻した思考で、私は洗面台まで向かい、それを洗い流す。 今日は急いで家を出たからハンカチは持って来ていない。 夏服の短い裾で顔を拭く。 吹ききれず水滴を残したままの顔は、まるで泣いているかのようだった。 そのときだ、携帯電話が鳴り出した。 この短めのメロディは、メールを受信したものだった。 ポケットから携帯電話を取り出した。 件名[ なし ] 「こなちゃん、どうしたの?大丈夫???」 つかさからだった。そういえば二人とも置いてけぼりだったね。 心配かけちゃったかな? メールしとかないと… う、ん、大、丈…夫。っと…送信。 本当に大丈夫…なのかな?明日。ちゃんといつもの私でいられるのかな? ううん、いなくちゃいけないんだけどね。 ちゃんと「 親友 」の泉こなたとして。 …今日は笑ってあげられなかったな… ごめん…かがみ。 明日からはちゃんと笑ってあげられるから。 今日だけは特別。 色んなことがあったから。 明日からは親友としての、今までのような日常が続くはず。 だから大丈夫だよ、私は… ……… 次の日の朝、駅のホームにて。 しかし…あのとき私が思い描いていた日常は、かがみからの一言で見事に崩れ去ってしまった。 「かがみ…」 「なに寂しそうな顔してんだ?」 「だって、もう会えないっていったじゃん!?」 私はかがみに食らい付いた。 「会えないなんていってないわよ。 ただこれからは、アンタのクラスに行く機会も減るし、 帰りも多分、彼と帰るわよ」 「そんなの、殆ど会えないのと一緒じゃん!」 「仕方…ないじゃない。もう、付き合うことにしたんだから…」 私はその言葉でわれに返る。 「…ゴメン、怒鳴っちゃって…」 そう、かがみはもう、親友以上のものを手に入れたんだ。 私は親友として、応援してあげなくちゃならないんだった。 「…いや~、突然のことだから、動揺しちゃったよ。 うん、私たちのことはいいから、いいから。 お昼休み?登下校?どんどん行っちゃいなよ! …だけどひとつだけお願い」 「えぇ?、あ、うん、なによ」 私のテンションの落差に、かがみは狼狽しながら聞き返した。 「たまに会ったときに、ノロケ話をするのだけはやめてよね? ツンデレのデレを見るのは面白そうだけど、 他人にデレてる姿をみても寒いだけだし、それに…」 「な、ツンデレいうな!」 「これから暑くなって来るのに、恋人同士のアツアツ話なんか 聞いてたら、熱中症で倒れちゃうよ~」 「そんな、アツアツだなんて…」 「お、早速テレてるテレてる。 この反応、もしや昨日でもうすでに、 ちゅ~とかしちゃったのかな?」 「…! するかぁ~!!」 そしていつもの追いかけっこが始まる。 私は笑った。もう届かない、愛しい人に向けて。 そうだ、これでいいんだ。 過去に私がした妄想が、少しだけ現実になってしまって、そして、少しだけ早く訪れてしまっただけなのだ。それだけなんだ。 少しの変化であったけど、あとはなにも変わらないでいられる。 わたしはかがみの「 親友 」として、卒業まで… ずっと。 私は、追いかけるかがみから逃げながら、あることを考えていた。 かがみの日常が変わってしまったのなら、私も変わらなければならないと… ……… その…次の日の放課後、こなたの教室にて。 「あんた、それマジで言ってんの!?」 「うん、おおマジだよぉ~?」 みんなに帰宅の挨拶を告げるために、こなたがいる教室まで足を運んだ私。 こなたからの思わぬ告白に、今度は私が狼狽する番となった。 「どこの誰よ!?」 「かがみが知らない人だよ。三年生の人だし」 「でも、昨日の今日で…」 「あぁ、ひどいな、そんな軽い女じゃないよ?私。 ずっと考えてたんだけどね。 かがみのがいいきっかけになったというか…」 「でも、いきなり彼氏が出来ましたってどうゆうことなのよ~!」 「あは♪ おそろいだね!」 EpisodeⅡ ― END いふ☆すた EpisodeⅢ~堕ちる果実~へ続く コメントフォーム 名前 コメント (^_−)b -- 名無しさん (2023-07-05 12 07 52) まだ完結してないようですので、続きを楽しみに待ってますが、作者様~かがみとこなたにはハッピーエンドをお願いします。 -- kk (2009-01-28 23 04 33) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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私はかがみに“望まないキス”をした。 これから私達の関係がどう変化したとしても、その事実だけは永遠に消えないだろう。 それでも私は、前へと進まなければならない。 それが、マイナスとなってしまっている今の関係をリセットし、何も無いゼロの関係に戻る事になったとしても…。 ――今日、私はかがみに想いを告げる。 「ふとしたことで~0の関係、1の感情~」 終業式の日。全校集会での校長と生活指導の教師の無駄に長い話を耐え凌ぎ、これから始まるHRを適当にこなせば、いよいよ待ちに待った冬休みが幕を開ける。 学校中の雰囲気が冬休みムード一色に染まる中で、私は携帯電話とひらすら格闘を続けていた。 ディスプレイに表示される『送信しますか?』という文字列と、『はい』に合わされたカーソル。 『放課後、屋上まで来て』と簡潔に済ませた本文と、『柊かがみ』と表示された宛先が、私の親指にボタンを押させるのを躊躇わせる。 「…決着を付けるんですね?」 不意に背後から声を掛けられ振り向くと、優しげな表情で私を見つめるみゆきさんの姿と、複雑な表情で私を見つめるつかさの姿があった。 私は笑顔を作り、首を力強く縦に振ってそれに答えた。 みゆきさんがそうですか、と穏やかに微笑む。 「…私は、ゆきちゃんみたいに素直にこなちゃんの事を応援出来ないかもしれない」 つかさが意を決したかのように、私にそう告げる。 「私にとっては、けんちゃんも大切な友達に代わりは無いから、どっちの味方にもなれない。…でも、お姉ちゃんがどちらを選んだとしても、私はずっとこなちゃんの友達だからね」 「私もだよ、つかさ」 辛そうな顔をするつかさに、私は優しく微笑みかけた。 多分、今回の事で一番心を痛めたのはつかさなんだろうなと私は思う。 誰かを喜ばせたい、幸せにしたい。ただそれだけの思いでやったことが、逆に周りを傷つける結果になるなんて誰が想像するだろうか? 思えば、私達四人がこうして仲良くなれたのも、私とつかさのふとした出会いがきっかけだったんだ。 私はつかさに感謝したい。 あなたのお陰で、私はかがみに逢えたのだから…。 「じゃあ、押すよ」 私は二人にそう確認を取ると、携帯電話の決定ボタンを押した。 § こなたはどうして私にキスなんかしたのだろう? 最近、私はそんな事ばかり考えている。 最初は熱のせいで正常な判断が出来ず、悪戯の延長線上で起きた出来事だと決め付けていた。 でも、それならこなたはすぐに自らの非を認めて謝りに来る筈だ。 少なくとも、廊下で私とすれ違った途端に逃げ出す程、臆病な行動を取るとは到底思えない。 なら、なぜあいつは私を避けるのか? 色々考えた末に、私はある一つの仮定に辿り着く。 …もしかして、私が最初に決め付けていた「単なる悪戯」という前提条件が間違っているのではないか、と。 もしも、あれが純粋な悪戯等ではなくて、恋煩いの末の暴走行動だったとしたら――。 そこまで考えて、ありえないと私はその仮定を全否定した。 世の中にはそういう恋愛を好む人々も居るし、その事自体を私は否定しようとは思わない。 確かに、あいつは女のくせに男のオタク同然の嗜好をしている。 ただ、だからといって、こなたがそういうシュミを持っていると考えるのは、あまりにも馬鹿げてると私は思う。 ましてや、その対象が私だなんて――。 「お~い、柊。さっきからケータイ鳴ってるぞ~」 なかなか結論が出ずに難航していた私の思考は、日下部の言葉によって遮られた。 「えっ? あっ、ホントだ…」 こんな休み時間の合間に誰からだろう? そんな軽い気持ちで携帯電話を開いた私は、画面に表示された『送信者:泉こなた』の文字を見て、固まった。 『放課後、屋上まで来て』 簡潔に用件だけ書かれた本文に、私は震える手で『わかった。』とだけ、返信した。 § ――いいか、こなた。人にはな、ダメだと分かっていてもやらなきゃいけない時があるんだ。 ――でも、かがみはもう…。 ――確かに、かがみちゃんにはもう彼氏が居て、いくらこなたがかがみちゃんの事を想っていても、かがみちゃんが同じ感情を持っていなきゃ、その恋は叶わないかもしれない。でもな、今ここで自分の気持ちを伝えられなかったら、いつかきっと後悔する事になる。お前はそれで良いのか? ――いやだ。かがみに「好きだ」って伝えたい。自分の気持ちを伝えて、かがみと色んな所に行って、色んな話をして……ずっと一緒に居たい……。 ――それなら、まずは行動しないとな。 ――……うん。 あの日のお父さんの言葉で、私はようやく前に進む勇気を手に入れた。 これから私が起こす行動は、儀式のようなものだと思ってる。 私とかがみの関係を一旦全て清算して、また1からやり直す。 …いや、1に戻すだけじゃ、また同じような間違いを犯してしまう。 だから、これは0に戻す為の儀式なのだ。 0にすれば、友情という名の足し算でプラスの数字にはなるけれど、恋愛という掛け算はいくらやっても0のままだ。 だから――。 「こなた」 背後から懐かしい声が聴こえた。 その瞬間、溢れ出しそうになった感情を必死に抑止して、私は努めて穏やかに後ろを振り返った。 「久しぶりだね、かがみ」 1ヶ月ぶりにようやく直視する事の出来たかがみの顔は、緊張感からなのか、それともまた何かされるんじゃないだろうかという恐怖感からなのだろうか、普段の表情とはかけ離れた、とても強張った表情をしていて――私は改めて、自分のやってしまった事の大きさを噛み締めた。 § 「…話って、なに?」 自分でも声が震えているのが良く分かる。 久しぶりに見たこなたの表情は、以前よりも大人びていて、どこか悲しげだった。 私の脳裏に、嫌な予感が去来する。 私は何を怖がっているのだろう? もし、あの仮定が現実の物として私に直面したとしても、私にはもう付き合っている人が居ると断れば良いだけなのに…。 「うん…。話したい事は色々あるんだけどね…」 そんな私の葛藤に気付かないまま、こなたは本題に入ろうとする。 私の緊張感が一気に高まっていく。 「…一番先に、かがみに謝らなきゃいけないよね…。この前はごめんね、かがみの気持ちを踏み躙るような事をして…。本当に、ごめんなさい」 こなたはそう言うと、真摯な態度で頭を下げた。 …どうやら、この謝罪にはそれ以上の意味は無さそうだ。 それを確認した私は、軽く胸を撫で下ろした。 「うん。私の方こそごめん。熱出して倒れそうだったのに、ビンタした上に、こなたの事を放って帰るような事をして…」 「それは仕方ないよ。あんな事をした私が悪かったんだし…」 …うん、今の所は順調に話が進んでいる。 このまま、今までのように友達で居ようと私が希望して、こなたがそれに同意すれば、私の抱いていた懸念は全て解消される…。 「ううん。私の方も、あの時は感情的になり過ぎてたから…。だから、もう全部水に流して今まで通りの関係に戻ろう? …キスの事だって、ノーカンって事にしとくから――」 「そうじゃないんだよ、かがみ」 一瞬、時が止まったようだった。 絶句する私を尻目に、こなたは静かに首を横に振った。 「…もう私達は、今までの関係には戻れないんだよ。悪いけど、私もそれを望んでない」 「……何それ? なにが…言いたいの?」 嘘だ。本当は分かっている。 「…実は、もう一つかがみに言わなきゃいけない事があるんだ。多分、それを聞けば、私が思ってる事が分かると思う……理解は出来ないかもしれないけど。私ね……」 解けた筈の緊張の糸が、再び雁字搦めのようにきつく私の体を縛り付ける。 これ以上は聞きたくない。 「…あ、あのさ、こな――」 「かがみの事が好きっ!」 慌てて話題を変えようと、話しかけようとした私を無視して、こなたは禁断の言葉を告げた。 「……ははっ、何言ってんのよ、こなた。私達は女同士じゃ――」 「関係無いよ」 決定的な一言を告げられても尚、冗談だと誤魔化そうとする私に、更なる言葉が突き刺さる。 「男だから、女だからなんて関係無いんだよ…。単純に、私はかがみの事を恋愛の相手としてずっと見るんだよ。……かがみじゃないとダメなんだよ…」 一つの曇りも無い真剣な眼差しで、こなたは私の顔を見つめる。 もう、私に逃げ場は無かった。 「…私、もう彼氏が居るのよ?」 「うん、それも判ってる」 私が非情な一言を告げると、こなたの表情に更なる悲しみが帯びていく。 それでも、こなたの決心を揺るがすまでには至らなかった。 「これは私なりのけじめの付け方なんだ。だから、かがみはそれに付き合ってくれなくてもいいから…ね?」 儚げな微笑みを向けながら、こなたはそう前置きすると更に話を続ける。 「……もしも、私の気持ちに応えてくれるなら、イブの日の午後8時に、糟日部駅の近くにある中央公園に来て欲しい…」 「……」 何も答えられない私を見て、こなたの表情に申し訳無さそうな感情が混じる。 「ごめんね…。私、いつも自分勝手な行動でかがみの事を困らせるよね…。ホント。……嫌われても仕方ないって思ってる。――でも、かがみに嫌われるのはやっぱり嫌だな…私……」 「っ!?」 悲しく微笑むこなたの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。 「…へへっ、こんなの卑怯だよね。自分が悪いのに泣いちゃったら、さ…」 制服の袖で目をごしごしと擦ると、ようやくこなたは私の顔から目を背けた。 「…じゃあ、私、待ってるから…」 そして、二度と私の顔を見る事無く、屋上を去っていった……。 …全てが終わった後、私はその場にへたり込んだ。 「……冗談じゃないわよ……」 誰も居なくなった屋上から映る風景を呆然と見つめながら、私は何度もそう呟いた。 ――全てが信じられなかった。 こなたが私に対して恋愛感情を抱いている事も、今までのような穏やかで平穏な関係をもう彼女は望んでいないという事も。 ……こなたとのやり取りを終えて間もない私の心臓が、尋常じゃない勢いでずっと高鳴っているという事にも――。 聖なる夜にへ コメントフォーム 名前 コメント (T ^ T)b -- 名無しさん (2023-06-22 07 44 05) 心に来ますねぇ… -- 名無しさん (2009-04-27 02 21 20) いや〜続きが気になる! -- 名無しさん (2009-02-28 04 25 50) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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朝目覚めると、まだ慣れない新しい自分の部屋。 かがみは泉家の一員として、その新しい部屋に住んでいる。 着替えて、髪を結んで、準備もばっちり。 新しい朝を迎えるからには、最初からきちんとしなきゃね。 そう思いながら部屋を出て、少し緊張しながら居間に向かえばそこには・・・ 誰もいなかった。 「って、まだ寝てるの!?」 思わずこけそうになりながら階段を上り、こなたー!と大声を出しながらこなたの部屋のドアをノックすると、ゾンビみたいな顔したこなたが無防備に寝巻き姿のまま出てきた。 「・・・いやあ、かがみんや、朝早いねえ」 「早くねえよ!あんたが遅すぎんの!遅刻しちゃうわよ!大体、他の人は?!」 「お父さんは昨日徹夜だったんじゃないかなあ。ゆーちゃんはなんか用事あるとかで早く出たよ」 「じゃあ、あんたは何で遅いのよ」 「いや~、ネトゲが思った以上に盛り上がって盛り上がって、ついつい眠る時を失うのは、デフォだよ、デフォ」 「そんなデフォはお前だけだ!」 なんて生活リズムがバラバラな家族なのか、そうじろうさんは小説家だから仕方ないとは言え、もう少し考えて欲しいものだ。 朝ご飯とか、一体今までどうしてたんだろ? 「とにかく、朝ごはんくらいは作ってあげるから、さっさと着替えなさい!」 「は~い」 寝ぼけ眼で部屋に戻っていくこなた。 それを見送るかがみだったが、 ふと気になってこなたが入っていった部屋をノックしてみると、反応がない。仕方なくあけると、そこにはベッドで眠るこなたの姿があった。すやすやと完全に熟睡しております。 「寝るな!!」 「うお!?こういう時、二度寝もデフォだよね!?」 「デフォじゃねえ!そんなに寝ようとするなら、私が着替えさせるわよ」 「え、それは、勘弁してください」 いやそうなこなたの顔を見て、ふとかがみは悪戯心が湧き、こなたの服の袖を持った。 「はーい、万歳しましょうねー」 「ちょ!?かがみん、恥ずかしいって!」 「そっちが起きないのが悪いんでしょ、はい、脱いだ脱いだ」 「自分で出来るって!子供じゃないんだから!」 こなたの言葉を無視し、服を脱がせようとして悶着する、恥ずかしがるこなたが珍しくて、余計にかがみはこなたを着替えさせようと躍起になった。そのはずみで揉み合い、二人で抱き合うようにベッドの下へ落ち、かがみの唇がこなたの頬に触れる。 そして2人は至近距離で見つめあい、なんとなく気恥ずかしくなって離れた。 「もう、素直に起きないからこんな事になるのよ」 「かがみんや、顔が赤いよ」 「べ、別にそんな事ないわよ」 「朝から私の服を脱がそうとケダモノのように襲ってくるなんて、かがみんのえっち」 「違うっつの!起こそうとしただけでしょ!」 「もう・・・朝からかがみがそんなにしたいなら・・・いいよ?」 「違うっつってんだろがああああ!!」 結局、2人は少し遅刻しました。 ・・・・・・・ 「あ~、こなちゃん、お姉ちゃん、おはよ~」 いつものように休み時間になって、自然と集まる四人組。 ただつかさだけが、少し妙な、はわ~、という感じで目が点になった表情をしています。 「どったの?つかさ」 「え、こなちゃん、何でもないと言えば、何でもないんだけど・・・」 いつも一緒に住んでいた姉が、別の家に住むようになったけど学校では会う、という状況が、なんだか珍しくてはわはわしてしまうつかさなのでした。 「もう聞いてよつかさ、こいつ、朝から全然起きなくってさ~」 と、かがみが迂闊な発言をした瞬間、みゆきさんが不思議そうな顔をしました。 「あら?昨日は、泉さんの家に泊まられたんですか、そういえば、ここ数日はお2人ともお休みだったようですけど・・・・」 「え、あ、うんまあ、昨日はちょっと、こなたんちに泊まったのよね。あはは」 「かがみんったらほんと迂闊なんだから~。そういうところも萌え~」 「殴るぞ、お前」 その会話を聞いていたつかさが、不意に真剣な表情になってかがみの袖を引き、耳打ちした。 「ねえ、お姉ちゃん」 「なによ、つかさ、急に小声になって」 「ゆきちゃんには、教えないの?」 かがみはつかさのその問いに、不意を突かれた気持ちになって押し黙った。正直に言えば、これ以上誰にも自分達の秘密を打ち明けたくないような、そういう気持ちはある。みゆきを信用していない訳ではなかったが、誰彼構わず説明しなきゃいけないようなものでもないと、かがみは思っていたのだ。 「ゆきちゃんなら、大丈夫だよ」 とつかさは、なぜか確信し切った口調で言い、みゆきに打ち明けて欲しそうに、言葉ではなく、子犬のようなきらきらしたその目で懇願した。 「な、なんで、そんなに打ち明けたがるのよ」 ちょっと弱気にかがみは言う。まるで、みゆきを信用していないみたいに思われるのが、嫌だったからだ。 「だってね。どうせゆきちゃんには隠せないと思うの。これからもずっと一緒なんだし・・・そういう時に、ずっと自分だけ秘密にされてて、たまたま何かの拍子で分かっちゃったりしたら、とっても寂しいと思うから・・・」 「う・・・それは、そうね」 つかさって、なんていうか、そういう所、鋭い・・・とかがみは、妹の意外に理知的な側面を見たような気がした。 「お姉ちゃん。ゆきちゃんは絶対、こなちゃんとお姉ちゃんのことを、変な目で見たりしないよ」 何でそんなに他人を信じられるんだろう・・・とかがみは妹の事をうらやましく思う。つかさみたいに他人を信じられたら、きっと先日みたいな騒ぎを起こさずに済んだのに、と。 「分かったわよ。でも教室じゃ無理だから、お昼休みにでも屋上行こ」 姉のその言葉に、つかさは満面の笑みを浮かべて 「うん!」 と頷いたのだった。 ・・・・・・・・ 「ってな訳なんだけど、こなたは、いい?」 いざ、屋上に行く前に、こなたの了解だけは絶対にとっておく必要がある。これは自分だけの問題ではないのだから・・・ 「異議なーし、っていうか、みゆきさんにはその内話すつもりだったよ。ほんとは、小出し小出しに様子を伺って、同性愛ってどう思う?とかそういう感じで探り探りやっていく気だったけど」 具体的にはおたくジャンルの話と絡め、百合ものやBLものについて話題を振り・・・とか細かく考えていたこなたなのだった。 「あんたはあんたで考えてんのね」 自分だけが何も考えていなかったみたいで、ちょっとかがみは凹んだ。 「いやー、かがみんの事だから、誰にも話したがらないだろうなー、とは思ってたよ」 「なんでよ」 「いやほらツンデレだから、素直に話すとか出来ないタイプ?」 「ツンデレ言うな!」 2人で話しながら階段を上る、みゆきとつかさは、先に屋上で待っている筈だった。歩きながら、かがみはふと階段で立ち止まり、心中の不安を隠すため、ことさら軽い口調で言った。 「もし・・・みゆきが、私達のことやだ、って言ったらどうする?」 ん~、とこなたは、いつものように感情の分からない(≡ω≡.)みたいな顔で言う。 「それはそれで仕方ないじゃん。性格の不一致で友達付き合いはお仕舞いってことで。私とかがみの関係を認められない人と、友達付き合いしてもしょうがないよ」 「まあ、そうだけど・・・」 私だったら、今までみゆきと友達だった時間、楽しかった時間を思い出して、悲しくなっちゃうな。きっと、裏切られたみたいに思っちゃう。こなたはそういうので傷つかないんだろうか? 「みゆきが認めてくれないと、私はなんか、悲しいな」 それは、とても寂しい。 「しょうがないよ。そういうのって、無理に認めさせるもんじゃないと思うし。友達付き合いとかって、無理矢理するもんじゃないもの」 こなたってドライだ、とかがみは思う。そういえば初めて会った時は、こなたはもうちょっとクールな感じだった気がする。おたくってまあ、大体そうなんだけど、他人との関係より自分の趣味ばかり大事にして、ドライなところがある・・・ような気がする。 「みゆきは・・・」 私は、みゆきと友達じゃなくなっちゃったら、寂しいんだけどな。こなたは多分、寂しくないのか、その寂しさが平気なのか、どっちかなんだろうな。 「どったの?かがみん?」 「ううん、なんでもない」 ちょっともやもやしながらも、2人で階段を上っていく。 「あのさ、大丈夫だよ、かがみ」 「何がよ」 「みゆきさんは多分、私達を拒否したりしないよ」 つかさもそう言っていた。 こなたもそう言う。 そして、実は私も、みゆきなら私達を拒否しないと思っているのだ。 「うん、私も、そう思うよ」 「あ、やっと笑った」 「何が?」 「いや、かがみ、ずっと難しい顔してたからさ。やっぱりかがみの笑顔はいいねえ、萌えるねえ~」 「萌えるとか言うな!」 恥ずかしくなって顔を赤くしながら、足早に屋上に出る。そこでは、つかさとみゆきが先にフェンスの辺りで待っていた。二人は振り返り、とりあえずの笑顔を見せた。その笑顔に留保があるのは、みゆきの少し緊張した様子ですぐに分かる。 「なんだか、秘密のお話があるとか・・・」 みゆきは、そぅ言って私達三人を見回した。 「私から言おうか?」 とそれに答えて、こなたがすすんで前へ出た。なんとなくこなたに任せてしまいたい、甘えた気持ちが一瞬浮かんで、それを心の中で打ち消す。私はあえて何も考えず、えいやっと口から放り出すみたいに言った。 「あのね、みゆき、私とこなた、付き合ってるの」 心の奥底から勇気を振り絞って、眩暈さえ起こしそうな気持ちで、私はみゆきに目で訴えかける。みゆきはぱあっと笑顔を浮かべて、いつものように頬に手を当て、まあ、と小さく声をあげた。 「お2人とも、おめでとうございます、うふふ」 拍子抜けするくらい簡単に、みゆきは私達を祝福した。それが余りに簡単だったので、私はつい、言ってしまう。 「あの・・・みゆきは、その、私達のこと・・・変に思わないの?」 「変、ですか?」 「いやその、何ていうか・・・」 たずねた私の方がしどろもどろになってしまう。みゆきはまた、うふふ、と笑って言った。 「かがみさん。私は、知識を蓄えるのを良しとする人間なんですよ。知識は正しく使えば、概ね変な偏見を持たないで済むようになる力がある、と私は信じているんです。色々なものを見て回れば、世の中には様々な方がいる事が分かりますし、その方々の立場や意見も、ある程度は分かるようになります。日本にも同性愛の方々のコミュニティと言うのはありますし、かがみさんも、よろしければ一度、そういう方々のホームページなども見てみてはどうでしょうか?」 不意にそう言われ、私は動揺した。 「え、いや、私は別に同性愛って訳じゃ、その、こなたが、好きなだけで・・・って何言ってるんだ私は!?」 自分で言った台詞で真っ赤になるのを、みゆきは少し微妙な表情で眺め、こなたはにやにや笑った。 「可愛いこと言うねえ、かがみん。私のことが、なんだって?ん?ん?」 べったべたとまとわりつき、抱きつくこなたに私は恥ずかしくなり、ついでにさっきの余りにも恥ずかしい台詞を思い出し、逆切れするしかなかった。 「うるさーい!もう!ひっつくな!!」 「ツンデレなんだからかがみったら~、嬉しいくせに~」 もう、殴るしかなかった。だからがつんと行かせてもらいましたよ。グーで。 「いた~い、かがみったらきょ~ぼ~」 「うるさい!離れろと言ったのに離れないからだ」 しかし、そんな様子を何故かみゆきさんは、少し真顔でじっと、何か言いたそうに見ていて、それに何かを察したこなたがすばやく言った。 「私は、同性愛者ってことでもいいよ。かがみの事好きだから」 「ちょ!?おま!?」 みんなの前で恥ずかしいこと言うなよ!? 「うふふ、泉さんったら・・・本当にかがみさんのこと、好きなんですね」 「そりゃそうだよ~。かがみんは俺の嫁、ってなもんだよ」 「ちょっとこなた!」 自分でも顔が赤くなっているのが分かる。なんだこれ、新手の拷問か? 「うふふ、末永くお幸せに」 「なんかやめてよ!?その結婚を祝福するみたいなの!」 「あ、そんでね、みゆきさん、かがみはいま、私と暮らしてるんだ」 その言い方だと、二人だけで同棲してるみたいに聞こえるだろ?!わざとか!?わざとなのか!? 「あら~、そうだったんですか」 スルー!?聞かないの詳しく!? 「あ、お姉ちゃん、そろそろチャイム鳴りそうだね。降りよう」 「誤解を解く機会無し!?」 なんだかみゆきが誤解をしてそうな気が、ひしひしとする。いいのかこれで? みんなで階段を降りる時に、何故かみゆきは、私にこう尋ねた。 「女性しか好きになれない女性の同性愛者の方のこと、かがみさんは、どう思いますか?」 その問いに、私はみゆきだけにしか聞こえないように気をつけて、こう答えたのだった。 「いや、ほんと、私は、こなたの事が好きなだけだから」 と・・・。 ・・・・・・・・・・・・・ 「よ~う、ひぃらぎ~、お前何日も休んで何してたんだよ~う」 日下部が肩をバシン、と叩いて私に言ってくる。そういえば、峰岸や日下部にはどうしようか・・・でも打ち明けはじめると切りがないし、こなたの意見も聞いてないし・・・私は2人にはこなたとの事は秘密にすることにした。 「ちょっと風邪よ、長引いちゃったの」 まるっきり嘘でもない。湖に落ちたら風邪くらいは引く。 「風邪~、この時期にすげえな~。私、あんまり風邪引いたことないぜぇ~」 確かに日下部は風邪を引かなそうだ。 「あ、ひぃらぎ、いま私のこと馬鹿だと思ったろ!?」 「まさか」 よく分かったな、日下部。そう思っていると、峰岸が言った。 「でも、柊ちゃんが元気になってよかったわ。みさちゃん、とっても心配していたのよ。携帯でも連絡つかないし」 その携帯は電源オフのまま湖の底へお亡くなりになりました。環境破壊への第一歩だ。 「あ、携帯、壊れちゃって。もうすぐ、新しい携帯買うから、そしたらまた登録しなおしになると思う。ごめんね」 「ん~~」 日下部が腕を組んでうなりだした。なんだろう、まさか考えごとって事はありえないから、新手の体操だろうか。 「なんか、柊、変だぞ」 「何がよ」 「なんつーか、なんか、なんか変なんだってヴァ!」 「変な事言ってるのはお前だろ・・・」 ちょっと呆れて私が言うと、峰岸が助け船を出した。 「柊ちゃん、何か、私達に隠してない?急に何日も学校休むし、携帯は壊れたっていうし、今日のお昼も、いつも行かない屋上に行ってたみたいだし・・・ってことを、みさちゃんは言いたいんだと思うの」 「そう!あやの!まさにそれだってヴぁ!」 「峰岸は日下部の通訳かよ・・・」 力の無い突っ込みをしながらも、峰岸や日下部が、私の変化に敏感に反応していることだけは、間違いなく分かった。いつまで誤魔化せるだろう・・・一瞬、2人に打ち明けたい誘惑に私はかられた、だがこなたの許可もとっていないし、みゆきの時のように、2人は絶対大丈夫と太鼓判を押してくれる誰かも居なかったのだ。 「学校休んだのは風邪だし、携帯は洗濯しちゃったの。屋上に行ったのは、たまたまそういう気分だっただけよ」 「ん~~なーんか納得いかねー、なーんか腑におちねー」 じろ~、と横目で見てくる日下部に、峰岸がやんわり注意した。 「みさちゃん、柊ちゃん困ってるじゃない。あんまりしつこくするんじゃないの」 「え~、だってあやの~、ひぃらぎ冷たいぜ~、私らとの方が付き合い長い筈なのに、ちびっこ達との方ばっかり大事にしてる気がするじゃんか~」 う・・・日下部はなんだか鋭い。最近は、妹や日下部の鋭さを再発見して驚くばかりだ、なんていうか、バカだけどバカじゃない。でもつかさは日下部と一緒にしたら怒るかな?日下部のバカさは、筋金入りだから。そういうバカさも、なんというか、私から見ると羨ましいというか、愛せるというか、まあ、要は友達ってことだ。 しかし、日下部より、こなたの方を大事にしてる、と来たか・・・。 「別に、そんな事ないわよ。あんたらの事だって大事な友達だと思ってる・・・」 言いながら、胸が痛い。そんな事を言いながら、隠し事をしている自分を意識せざるを得ないから・・・こなたと相談して、峰岸や日下部に打ち明けていいかどうか決めなきゃ・・・。 でもこうやって、打ち明ける相手を広げているうちに、いずれは不特定多数に私達のことがバレていくのかも知れない。特に日下部なんかバカだから、つい誰かに喋っちゃいそう。 「柊ちゃん、何か困った事があるのなら、いつでも言ってね」 そう言って峰岸が話を打ち切り、話題は全く別の事へ移っていった。しかし休憩時間の終わりに、日下部は念を押すように私に、珍しくまじめな顔で、少し不満そうに言うのだった。 「私は柊のこと、大親友だと思ってるかんね!そっちがどう思ってるか知んないけど!」 私だってそう思ってるわよ。バカ。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 「ねえ、日下部達に、打ち明けていいかな?」 いつもの四人で下校中に、私はこなたに相談した。やっぱり峰岸や日下部は親友だから・・・。 「別にいいよ。かがみが打ち明けたいなら」 こなたは軽い調子で、まるで興味がないみたいに言う。なんだか、こなたは時々クールだな、と思う。 「でもそうやって打ち明けていくうちに、いろんな人に広まっていくのよ?日下部なんかバカだから、誰かに喋っちゃうかも知れないし」 「みさきちは、多分誰にも言わないよ」 不思議と、こなたは静かにそう断言した。 「何で分かるのよ」 「勘。それにね、かがみん、隠しおおせなくてもしょうがないよ。学校中にバレたとしても、それはそれ、だよ。学校中にバレたら、みゆきさんやつかさは、私達と距離を置く?」 「そんな筈ないよ!」 と予想外な強さでつかさが言い、みゆきさんもまじめな顔で、「泉さんもかがみさんも、何があっても大事なお友達ですよ」と言った。 「ほらね、問題ないよ」 「でも・・・」 バレたらきっと、影でこそこそ色々言われるんだろうな。興味本位で不愉快な事をいっぱい言われるかも知れない。男子なんか特に無遠慮だから、無神経なこと、いっぱい言われそうで・・・ 「他人の目、やっぱり気になる?かがみん?」 「そりゃあね・・・」 でも・・・前ほどじゃない。分かってくれる人がいるって事、今は知ってるから。 「かがみの事は絶対私が守るからさ。辛い事とか、あったら私に言うといいよ」 とこなたは、珍しく真剣な顔で言う。 「バカね。平気よ。そんな弱くないわよ、私」 もし、こなたとの関係が学校の噂として流れたら・・・つまり、柊はレズで、泉と付き合ってるんだぜ、などという噂として、口さがない連中が話題として弄ぶなら・・・私はそれをただ無視するだろう。そういう話題を喜ぶのは恐らく私の知らない人たちで、親友や近しい人、日下部、峰岸、つかさ、みゆき・・・私の大事な友達であれば、むしろ何も言わずとも理解してくれる気がした。 でも一体、誰かが同性愛であるとかないとか、そんな事がどうして口さがない噂として喜ばれるのだろう。人々は一体、そんな噂で何を求め、何を得たというのだろうか。 ともあれ、私は明日には、日下部達に打ち明けようと思った。 後日談的な何か (後編)へ
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「いやー、大丈夫だよ!ほ、ほら!回りに人もちらほらいるしさっ!」 ホントは人なんていない。私達だけが歩く夜道。 「それにさー、いいよって言われると逆にさ・・・ねぇ?」 頭が真っ白な中奮闘する私。内緒にするって決めたんだ。これ以上、かがみに迷惑は、かけたくないんだ。 「・・・バカ。」 「え?バカって?」 そう言い終わらないウチに、私は包まれる。春の陽気のような温かさ。私に安らぎを与える匂い。心地よい空間。 思考が現状についてきてくれない。本当に真っ白。 「あんたの事よ・・・私に恥かかせる気?」 やっと分かった。私は今、かがみの腕の中。だからこんなにドキドキするんだ。 柔らかい感触。優しい雰囲気。全てが私をおかしくさせる。 「え、あぅ・・・」 「ねぇ、こなた。これでも・・・ぎゅってしてくれないの?」 糸が切れる。作り物の私が壊れる。我慢しないでいいんだ。この想い、止めなくて、いいんだ。 「かがみ・・・」 何も言えない。気のきいたセリフも、ムードを作る言葉も、出てこない。 だから、3つの音を繋いだ単語を口にして、思いっきり抱き締めた。 「全く。待ちくたびれたわよ。あんた、いつまでたっても言ってくれないんだもん・・・」 「・・・ごめん。」 「い、今だって、ホントは凄く恥ずかしいんだからねっ!」 「あぅ・・・」 「でもね・・・私は、今幸せだよ。こなたは?」 ホントにバカだな。恐がって、怯えて、動けなかった私。想いを届ける事さえしなかった私。 でも、今なら言える。これはかがみへのお礼。勇気を出してくれた、私に勇気をくれた、愛しい人への大切な想い。 「んー、やっぱりかがみは私の嫁!」 「言うと思った!」 笑い合う薄紫と深青。交われば何色になるのかな?何色にだって慣れる。全部私達しだい。 「ずっと一緒だよね、私とかがみ!」 「・・・うん!」 未来は赤色?黄色?それともオレンジ?分からない。だって、これから始まるから。私とかがみの第2章。 さぁ、始まるザマスよ!
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冷たい風が音を立てて通り抜ける。こなたは小さな体を震わせた。 学校指定のコートに埋まるかのようにできる限り露出面積を減らす。マフラーがないのが辛かった。 ほんの数日前はすごく暖かかったのに。また冬に逆戻りしたみたいだ。 「こなた、寒くない? 大丈夫?」 隣を歩いているかがみが心配してくれていた。 自分より大きな体。凍てつく冬の日も、うだるように暑い夏場も、凛として真っすぐに伸びた背筋。 かがみの優しい言葉にからかうつもりの返しがすぐにできなかった。 「……ぜんぜん、へーきだよ」 と、言ったそばから鼻を鳴らした。 もう、と苦笑交じりにかがみが近寄った。二人の身長差15cmとちょっと。 生まれながらに姉だったからなのか、少し大人びた仕草、気遣い。この頃はどうも、かなわない。 言ってしまえば母性的なものを感じさせること。で、あるかもしれないが、頑として認めない。認めていいわけない。 当り前に常に対等でありたいのだ。 「しょうがないわね、マフラー貸してあげる」 「いいよ。かがみが寒くなるじゃん。特にうなじとかさ」 「なんでうなじなんだ。あんたは小動物なんだし私より弱いんだから」 なにをー、と抗議するより先にぐるぐるとマフラーを巻きつけられる。 ちょっと不器用で乱暴で、でもすごくあったかい。もう、何も言えなくなってしまった。 ポン、とかがみがこなたの背中を押す。寒いのなんて関係ないよと、軽やかな足取りで。 マフラーにコートに手袋で、もこもこしているこなたが可愛くてちょっぴり可笑しかったのだ。 笑い声の理由を知る由もない彼女は、それでもつられて笑顔になって歩き出す。 空気の冷え込んでいる日には、人々は気が急くように足早だった。 春夏秋冬、季節の変遷を好むものはいても寒さを心から望む人間はいない。 故に寒さをしのぐもの。こたつの魔力とはよく言ったもので、このネコとて例外ではなかった。 「早く家に帰って炬燵でぬくぬくしたいよね」 「そうねー。でも、炬燵をつけるとみんなテコでも動かなくなってしまうのよね」 「それは仕方ないよかがみ。ウチなんてお父さんとゲームしながらそのまま寝落ちとか、よくあることだよ」 アハハと笑うこなた。口元はかがみのマフラーで隠れているけど。 早く暖房の利いた部屋で暖まりたいと思いつつ。一緒に笑い合う帰り道の時間を大切にしたい、とも。 行き交う人々の中には親子だったり、姉妹だったり、恋人同士だったり。手袋を着けていない手を重ね合わせていた。 人のぬくもりが恋しくなる、そんな季節。 「……あのさ、こなた」 「んー、なにかなかがみんや」 意外にも先に切り出したのはかがみだったが、こなたにはすでにばれていたようだ。 お決まりのにまにま笑い、はマフラーに埋もれて効果なし。小悪魔なアイツではなく、小動物な彼女。 やっぱり可愛くて可笑しくて、どうしてもにやけてしまう。照れは全くなかった。 「手、つなごう。まだあんた、寒そうだしさ」 元々手袋も着けずポケットに突っこんだままだった右手を差し出す。 こなた自身の手より当然大きくて、女の子らしく綺麗だけど、実際に触れると頼もしさというか安心できる。 選択肢は一つしかなかった。いつものツンでデレなかがみじゃなかった。触れたい、と思った。 手袋を外す、外気はやはり冷たい。でも、直に感じたい。 おずおずと重ねられた小さな手を、かがみはしっかりと握りしめた。 「なんか、ずるい」 「ん?」 小さく呟いたこなただけれど、かがみには聞こえていたらしい。 胸を張って歩く姿がよく似合うかがみも、手を繋いだ今は歩調をこなたに合わせていた。そんな優しさもずるい。 数か月前とあまり変わっていないはずの表情を少し見つめる。ガードの解けた無防備な表情。 そしてその次に見せるのは、心配している顔。些細なことでも気にしてくれている。 以前だったら呆れたり理解できない、と関心を失うのが普通だった。 「どうしたの、こなた」 そして問うてくる。 見つめられ、手も握られ、逃れようはない。 だからそーゆーのがずるいんだって。 「いやね、うん。かがみは、冬って好き?」 とはいえ、やられっぱなしは面白くない。 「えっ、何よ急に」 「急にじゃないよ。こないだまでもう春が来たって思ったのに、今日はすごく寒いじゃん、冬みたいでさ」 こなたの言葉にしぶしぶながらも頷いたかがみはあさっての方向を向いて思案し始めた。 真剣だった。けど繋いでいる手は離さなかった。 数秒の間。普通に人が行き交う往来で、足を止めて手を繋いでいる状況。見つめあってはいないが。 込み上げてくる羞恥心。考え中で気づかないかがみはこなたの力では動かしようがなかった。 この人、抱きしめてくるときとか、すごい力発揮するのはなんでなんだ。と、さらに顔が熱くなった。 「好きよ」 「はぇ?」 いつの間にか戻っていたかがみの、至近距離での『好き』。 一瞬、二人の時間が止まった。 「いや、だから、冬が。ったく、なんて顔してんのよ」 にやけつつ、赤面しつつ、かがみがつっこむ。 阿呆な想像を繰り広げていたことにこれ以上ない恥ずかしさを感じるも、どうにもほどけない。 逃さないとばかりに掴んでいるかがみにしても、まさか一般道で抱きしめるのは注目度が高すぎる。 こなたの回復に先んじてかがみ。ツンデレのツンが抜ければまさに直球一本勝負。 「人の体温って結構あったかいでしょ。寒いとほら、より一層ぬくもりを感じられるし。なんていうかやっぱり、幸せじゃない?」 結局、かがみの辞書の中に自重という文字は大概存在していないものらしい。 まだ赤みの引いていなかったこなたは、かがみの腕の中で表情は見られることはなく。しかし不意打ちで真っ赤になっていた。 長い髪の隙間から覗く、耳をも赤く染めた彼女と、幸せいっぱいの笑顔な彼女。二人の姿を見て。 足早に過ぎ去っていこうとした幾人かは歩みを止めかけ舌打ちし。 手を握り合っていた男女は「バカップル」と呟きながら、愛しの恋人に熱い視線を送るのだった。 コメントフォーム 名前 コメント 好きって言うのは冬のこと?こなたのこと? -- かがみんラブ (2012-09-19 21 37 11) 好きだなーこの感じ♪ 暖かい作品をありがとう作者様。 -- 名無しさん (2011-03-19 02 18 32) 今、この季節にぴったりな作品ですね。 オイラにも2人の様に物理的&心情的な『春』は 訪れるのでしょうか? う~ん・・・苦笑 -- kk (2011-03-14 22 38 15) 心が暖かくなりました -- 名無しさん (2011-03-14 02 22 28) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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ひとり、ふたり(前編)へ 4 「落ち着いた?」 「…うん。さっきよりは」 こなたが小康状態になるまでは、かなりの時間を費やした。どうやらこなたの気持ちの暴走も一段落したようだ。 私はこなたを正面から見据えて、切り出した。 「じゃあ、私の話…さっきの続きなんだけど…中断しちゃったからね…聞いてくれる?」 「…できれば…聞きたくないよ…。でも、聞く」 こなたも私を正面から見ている。まつげがふるふる震えている。ちょっと怯えた顔だけど、それでも私の話を聞いてくれた。 「私ね…こなたとずっと一緒にいたらいけないと思うの。あの…こなたが私を好きって言ってくれてからこんなこと言うのもすごくずるいんだけど…こなた、寂しかったんだよね?」 「…!」 こなたが息をのんだ。 「…気づいて…たの…?」 「いや、確証があったわけじゃないよ?でも、んー、結構前になるんだけど、ほら、2年の7月くらいだっけ?こなたがお母さんいないって初めて言ってくれたことがあるじゃない?あのときから、ちょっと注意してこなたをみるようにしてたのよ。最初は全然分からなかった。こなた、意識して寂しさなんて見せないようにしてたでしょ。特に私には。でもね、だから逆になんとなくそうじゃないかな、とも思い始めたのよ。それでよく考えてみると、あんたが甘える、みたいなときって、私だけなのよね。それで、ひょっとしてこなた、お母さんがいなくて寂しくて、甘える相手を欲しがってるのかな、って思って…。でも、もし本当に寂しがってて、そのこと隠してるんだったら、気づかれたくはないわけでしょ?だから私、こなたが寂しがっていたんだとしても、そのことを分かってるって気づかれないように、みたいなことをするようになって…。今年の初詣のときとかね。あのとき、私のお祈りの話が出たじゃない。あのとき私何て言ったか覚えてる?」 「えーと…確か…つかさやみゆきさんと同じクラスになりたい…だったよね…」 「うん。あれ、こなたの名前出したら、こなたとも一緒にって思われるじゃない?でも、それだと万一『一緒になりたい』じゃなくて『一緒になってあげたい』っていうふうに気づかれちゃうかもって思ったのよ。だったら名前出さないで単に照れてるって思われてた方がいいかなーって…。でも、今から考えれば一人だけ名前出さない方が目立つよね。普通にこなたの名前も出してた方がよかったのかなー…なんて」 「かがみ…。気を使わせちゃったみたいだね…ごめんね…」 こなたの目にまた涙が浮かんだ。 「ああもう、泣かない泣かない!実はほんとに少し照れてたってのもあるしね」 ちょっと笑みをつくってあげる。 こなたもつられてちょっとだけ笑う。 「それで、そんな寂しさ抱えてるかもしれない友だちを放っておけないでしょ?だから、私はこなたを支えてあげようって思うようになったの。こなたが私に甘えてきてるなー…ってことはわかったから、こなたがいつかそういう気持ちを乗り越えて、私がいなくても生きていけるようにってね。だから、まずはこなたのことならどんなことでも受けとめてあげよう、寂しくないようにって思って…からかわれても、意味不明なオタク用語使われても、宿題写しに押し掛けられても、全部受けとめてあげた。本当に嫌だったら、とっくに友だちなんてやめてるよ。でも、こなたの寂しさが少しでも薄まるならって思ったら、我慢できたよ。いや、我慢なんて言い方、おかしいね。こなたが嬉しそうにしてると、私も嬉しかったよ」 こなたは泣き笑いのような表情だった。色んな感情がない混ぜになっているのだろう。 実を言うと私もそうだ。 「だから、私はこなたが私なしでも生きていけるようにっていうふうに接してきたの。それで、今回のことで、もしかしたらこなた、もう私を必要としてないのかなって…避けられ始めて思った。避けられ始めた原因は、多分、私が何かミスって私がこなたの寂しさに気づいてるって感付かれたことだと思ったんだよね。自分が隠してる、一番奥のとこにある気持ちに触れられるって…すごく嫌なことじゃない?だから、嫌われて当然だと思った。…でも、このことで私を吹っ切ってくれるかも、とも思ったのよ。自分で言うのもなんだけど、今のところ一番あんたが頼ってるのは私でしょ?だから、私なしじゃ生きられない、なんて、そんなことになってほしくなかったの。こなたにはしっかり自分で自分に支えを持って、一人でも生きられるようになってほしかったのよ」 「…だから私にしょっちゅう宿題自分でやれとか、進路本気で考えろとか言ってくれてたんだね…」 「…まあね。それで、今日の最初の話に繋がるわけよ。こなたのデリケートな部分に触れちゃったことは謝るよ。だけど、そのことをこなたが許すかどうかにかかわらず、こなたとはお別れしたいなって…」 「待ってよ!」 こなたが大声を出した。 すがるような目で私を見つめている。 「待ってよ…待ってよ…。私の寂しさをかがみが知ってたことに私が気づいてたかどうかってことだってそもそも勘違いだったわけじゃない…。私は確かにお母さんいなくて寂しかったよ。家でも外でもそれに気づかれないようにしてたよ。でも、そのことにかがみか気づいてくれて、それで色々やってくれてたってことが分かって、すごく嬉しいんだよ!全然嫌だなんて思ってないよ…。それなのに…そんないきなり…お別れなんて…」 こなたの目から、また大粒の涙が溢れ出した。 「かがみ…せっかく好きだって分かったのに…。やっと伝えられたのに…」 再び、私は息をつく。 そして、言おうか言うまいか最後まで悩んでいたことを、言うことにした。 ちょっとだけ笑って口を開く。 「…とまあここまでの話は私の気持ち一つの形。あんたに一人でも生きられるようになってほしい、私がいなくても大丈夫になってほしい、それは間違いないよ。でもね…」 「…え…?」 「こなたを支えよう支えようって思ってるうちにね、私…だんだん変な気持ちになってきちゃってね、なんて言ったらいいのかな…こなたには私がいなくちゃダメっていうかね…」 「え…?それって…」 「あはは…本末転倒よね…。一人立ちさせるために支えてたのに、支えること自体が目的になってきちゃってね…。で、それからはもっとこなたに近づかなくちゃ、もっとこなたを知らなくちゃ…とか思うようになってね…。矛盾してるよね…。『私がいなくても大丈夫なように』…と…『私が支えてあげなくちゃダメ』…と…。でも…多分…だから…私もね、こなたのこと、好きなのかも…ね…」 「かがみ…」 こなたはしばらくぼー…っとした後、私の胸に飛び込んできた。 「かがみ…かがみ…かがみ…!」 「こらこら、ちょっと落ち着いて」 言いながら、それが意味をなさないことは分かっていた。 だから私も、こなたを抱きしめてあげた。 こんな小さな身体で…よく耐えてきたよね…。 悲しかったよね…。辛かったよね…。 こなたの髪を優しく撫でると、こなたは気持ちよさそうに目を閉じる。 こなたはまだ、泣いていた。 5 こなたの自制がきくようになるまでは、また時間を費やさなければならなかった。 もうとっくに日は沈んでおり、外は夜の帳が下りていた。 「あー…続き話しても、いい?」 「うん…ごめん…嬉しくて…」 「あの、つまりね?私はこなたが好きでもあるけど、離れていてもほしいのよ。だから、まあちょっと余談になるけど、海で普通にナンパとかも期待するし、修学旅行のとき手紙もらって告白期待しちゃったりとかもするわけよ。あ、ずっと考えてたんだけど、あんた修学旅行の手紙の一件、どっかで覗いてたろ!」 「たはは…ばれたか」 「家に帰ってからの電話で、変なこと言ったわよね。『不貞寝してるかと思った』って言ったでしょ?何言ってるのかと思ったけど、私が告白期待して男子と待ち合わせて、それがただの人形譲ってくれってお願いだったってこと知ってたと考えれば辻褄が合うわ。まったく…」 「いやだって…かがみあのときつっこんでくれなくなって…寂しくて…で男子の方みてたりそわそわしてたから、これは何かあるなと。で、ご飯の前に別れてからあとつけていったらあの場面に」 「あんたなぁ!人のプライバシーをなんだと思ってんのよ!ほんとに告白だったらどうするつもりだったのよ…」 いつものやりとりだった。 ほんのちょっとだけ、気が緩む。 「う…どうしてたかな…泣いてたかも…いや、その男子闇討ちとかしてたかな…。あ、じゃあ、もしあれが告白で、そのとき私が飛び出していって同時に告白してたら、かがみはあの男子と私、どっちをとった?」 「え?えーと…」 答えにつまる。 なんと言ったものだろう。 どっちをとっても私の本心ではない。 「うーん…」 私からの答えが返ってこないので、こなたの顔に影が差してきた。 私は慌てて手を振った。 「あ、いや、だからね?あんたが嫌いなわけじゃないのよ?あの男子が特別好きだったわけでもないの。でも…」 「うん…分かってる…。かがみは、私がかがみに頼りっきりになってほしくないんだよね…。言いにくいこときいてごめんね…」 こういうとき、嘘でも「こなた」って言ってあげられないのが、私の悪いところだよね。ときどき嫌になる。 代わりといってはなんだけど、本当のところを言うことにした。 「うーん…そうなんだけど…。両方断って、後でこっそりこなただけにOKしちゃったりとかしたかもね。そうすることが、本当は違うって分かってても。正直、どうなったかは分からない。あのときから、私こなたのこと好きだったしね。すごく悩むと思うけど、好きって気持ちが、支えてあげたいって気持ちに勝っちゃってたら、多分、こなたと、つきあってた」 「えへへ…そっか。ありがと」 こなたの顔に笑みが戻る。 それが、私の一番好きな顔なんだよ。 「…でもさ、あの男子、『こんなこと柊にしか言えないから』って言ってたよね?あれも十分フラグ立ててると思うんだけどねー…。何考えてたんだろうねー…」 「あーもう!終わった話はいいの!」 「かがみから話ずらしたんじゃん」 「悪かったわよ!それで!今後の話を真面目にするけど…」 「…」 こなたの表情が一気に引き締まる。 「考えてみるとさ、こなたのその『好き』って想い…えーと、嬉しいんだけど、ちょっと違うなって気もするのよ」 「え…?どういうこと?」 「その想いはさ、元々私に甘えたいって気持ちからきてるわけだよね?でも、こなたの周りにいる人をみてみると、みゆきには『いい人すぎて頼みづらい』から甘えられないんでしょ?つかさには…まあ言わなくても分かるわね。姉として腹立つけど、あんたつかさを自分と同レベル以下と見なしてるでしょ。あの子、根は真面目なのに…。なら甘えるわけにはいかないわね。ゆたかちゃんには『姉としてのプレッシャー』がどうこう言ってたから甘えられない。あとはおじさんだけど、さっきの話だと家の中でも寂しさ見せないように振舞ってるのよね。…まあ、おじさん親だし、そのこと気づいててもよさそうだけど…。とにかく、そうすると、私くらいしか残らないのよね。つまり、私に甘えたいというより、他に甘える人がいないって言った方が正しいんじゃないかと思うわけよ」 「…そんなこと…」 「あ、別にあんたの想いを否定したいわけじゃないのよ?ただ、その想いは、『私が好き』っていう積極的なものじゃなくて、選択肢を消していった結果残った、消去法みたいなものなんじゃないかなー…って」 「…そうなのかな…。私、ずっとかがみが好きって本当に思ってたんだけど…」 「このことはよく考えなきゃいけないわよ?だって、単に甘えたい人がほしいんだったら、私じゃなくてもいいじゃない」 こなたの表情がどんどん暗くなっていく。 ん…でもここで妥協しちゃいけないよね。 「まあ、このことは私にも言えるんだけどね。私がなんで弁護士志望なんだかわかる?」 「え…?えーと…そりゃ…人助けしたいから?」 「まあだいたいそうね。私ね、危なっかしい人とか見てると、私が支えてあげなきゃって思っちゃうのよ。つかさもそうだしね。そんなふうに、できるだけ多くの人を支えられる人になりたいのね。…だから、支えをほしがってる人をみたら、あんたじゃなくても力になってあげたくなると思うのよ」 こなたが雨に濡れた子犬のような声で問いかける。 「…じゃあかがみは…やっぱり私と一緒にはいられないの…?私もかがみも違う人好きになっちゃうかもしれないし、離れてた方がいいよ、って…そういうことなの…?」 「ほら、そんな顔しないで。離れてた方がいいとは思うよ?でも私だって将来どうなるかは分からないけど、今好きな人はこなただし…本当言うと離れたくない気持ちもあるわけよ」 「…難しいね」 「んー…私は、恋愛の関係と支える関係って対極にあると思うのよ。恋愛関係は、お互いがお互いを求める、相互依存の関係ね。支える関係っていうのは、いつか互いが独立して離れていく、その離れる力をつけるための関係。まあ優劣はないと思うけど、どっちが好きかっていうと支える関係の方よね。お互いがいなきゃ生きていけない人たちよりは、一人でも生きていける、強い人の方が好きだな、私は」 「…え、でもかがみその…結婚とか考えたことないの?」 「勿論あるわよ。でも、それもお互いがなきゃ生きていけない、みたいな関係よりは、強い人どうしが互いを認め合って好きになるっていう関係を考えてたのよ」 「そっか…それじゃ私はどうしよう…」 「それを決めるのも、強さの一つなのよ?私はだいたい決まったけど」 こなたは目を閉じてしばし沈黙する。 やがて、ゆっくりと目を開いた。 「…わかった。じゃあこうしよう。これからは自分一人で生きていけるように頑張るから。私、諦めないよ。私が一人でも生きていける、かがみなしでも大丈夫ってかがみがわかって、そのときまだ私がかがみを好きで、かがみが私を好きだったら…一緒に暮らそう?なんで私がかがみを好きなのか、よく考えてみるから、かがみも私を好きな理由、もっと考えてみて。それから、当面のところの付き合いは…あの、せめて高校卒業までは…一緒に…いてほしいな…。あとちょっとだし…。宿題とか進路とかはかがみに頼らないで真面目にやるから…。私まだ…かがみがいてくれないと…寂しいから…」 私は緩やかに笑った。 自然とこの表情ができた。 「うん。私の考えとだいたい同じね。いいよ、それで。でも、高校卒業までは一緒にいるけど、その先、どれだけ長い間離れてるかわからないよ?こなたが一人でも大丈夫って、私がどうやって判断するかもまだわからないんだよ?それでも私を好きだって想い続けていられる?私がこなたを好きだって想い続けていられると思う?」 こなたがちょっとむくれる。 「うう…意地悪言わないでよぅ…。大丈夫だよ…。きっと大丈夫だから…」 私はちょっとおかしくなって、そして、そんなこなたが…ちょっとかわいくて、少しだけ、心が揺れてしまった。だからこそ、今、言っておかないと。 「ふふ…ごめんごめん。わかったよ。応援してるからね。あ、それから、これは覚えておいてほしいんだけど、私が今日言ったことは、別にこなたの自由な恋愛を禁止するものじゃないからね。あくまでこれは私の考え。こなたが、この先、私以外の人を好きになって、その人と一緒になりたいと思うようになったら、私の言ったことはすっぱり忘れて、その人と幸せになって。こなたが私の考えに縛られることは私も望んでないから…。私のためにがんばることが窮屈に思うようになったら、いつでもそこから抜け出していいんだからね。私は、こなたが私のことをどう思うようになっても、そのことでこなたを嫌ったり恨んだりしないから、遠慮なんてする必要ないからね…」 こなたがまた少し夕立の顔になる。 「どうしてそういうことばっかり言うの、かがみは…。私がかがみを好きじゃなくなった後の話なんて聞きたくないよ…」 「ごめん。まあつまり、私は恩を売りたくてこういうことしてるわけじゃないよって言いたかったのよ。こなたが私をどう思ってもいいよって…。私が人を支えたいっていうのも、その人自身のためっていうのも勿論あるけど、どっちかっていうと、私がそうしたいからなんだよね。私より人の気持ちをよく考えてあげられる人なんていっぱいいるでしょうし、私より人のためになることをできる人もいっぱいいるよ。私ができることなんて大したことないんだから、もし私に不満があれば、別の人のところにいってくれていいんだよ。だから、余計なお世話だと思われこそすれ、感謝なんてされるつもりない。私は、私のできることを、ただやりたいようにやってるだけなんだから。勿論、全力は尽くすけどね」 「かがみ…。でも、私は、かがみが一緒にいてくれて…本当に楽しかったよ。かがみ、そういうこと全然言ってくれないから、気づかないで過ごしてきちゃったけど…今まで一緒に過ごしてきた時間の中に…かがみの想いがいっぱいつまってたんだよね…。私…かがみがいてくれなきゃ…もっとダメになってたと思う…。人を好きになるって気持ちもわからないままだっただろうし…。この先、どうなるかわかんないかもしれないけど…今の気持ちだけは、私、絶対に忘れないよ…」 こなたの気持ちが痛いほど伝わってくる。 少しだけ嬉しくて、少しだけ罪悪感に胸が痛む。 「うん。そう言ってもらえるとありがたいわね…。だけど、本当に寂しくなって、どうしようもなくなったら、無理しないで言ってくれていいからね。もうちょっとの間だけだけど、私が一緒にいてこなたが落ち着くんなら、一晩中でも一緒にいてあげるから。それで元気になれたら、また次の日からがんばって。ね?」 「かがみ…ありがとう…。あは…なんか、逆になっちゃったね…」 こなたが照れくさそうに言う。 「逆って?」 「ほら、私、ずっとかがみのこと寂しがりとかツンデレとか言ってたけど…私の方がよっぽど、自分の気持ち出すの苦手だったね…。寂しがってたのは私の方だったし…かがみのこと、こんなになるまで恥ずかしくて怖くて…好きって言えなかったし…。私、かがみが寂しがってるかなって思ったときは、茶化して紛らわしてあげようとかはしたけど…支える役目はかがみの方だったんだね」 「そうかもね…」 「すごいよね、かがみは。私なんか今日はもういっぱいいっぱいだったのに…。かがみはこんな話なのに全然照れてもないし、堂々としてるよね。今までは照れ屋で寂しがりで、こういうことなんかかなり苦手だと思ってたけど」 「そんなことないわよ?私だって恥ずかしい気持ちくらいあるわよ。けど、しっかり伝えなきゃいけないことは、ちゃんと言わなきゃダメだってことよ」 「そうだよね…。ん?あれ?」 「どうしたの?」 こなたが急に首をひねった。 「今気づいたんだけど、かがみが私が寂しがってることに気づいたのって、私がお母さんいないって言ってからだよね?」 「ええ、そうね」 「あーそっかー…ふーん…ていうことは…」 こなたがにまにましだした。 何だか猛烈に嫌な予感がする。 「な…何よ」 「3年に上がるとき、私らと一緒のクラスになりたいって思ってたのは、私と一緒にいてくれるため…それはわかったよ。でもさ…2年に上がるときも私らと一緒のクラスになりたいって思ってたんだよね?たーしかそんなこと言ってたよねー…」 あれか!あのことか! こいつ、こんなときにそんなこと思い出しやがって! 「そのときはまだ私が寂しがってるってわかってなかったんだよねぇ…?つまり…」 「黙れ黙れ黙れ!それ以上言うなああ!」 「あー…やっぱりかがみも寂しかったんだねー恥ずかしかったんだねー。ほらおいでー?なでなでしてあげるよー?」 つかさのやつめ…。いくら姉妹だからって何でもかんでもつかさに言うのはやめた方がいいのかしらね…。 「いいじゃない。似たものどうし、慰めあおうよー」 「あんたと一緒にするな…」 「えーどうしてー?そんなにツンデレっ娘しなくていいのにー」 「ツンデレ言うなってのに!」 結局私がこなたを支えようとしてたのは、自分も寂しかったからなんだろうか。こなたといつか離れてしまうのが寂しかったから、何とか理由を見つけて、こなたと一緒にいようとしただけなんだろうか。 そんな疑問は、とっくに解決したものだと思っていたのに。 「言ったでしょ?あんたは、私が支えてあげたいのよ。その私が寂しがったりしてちゃ…あんたの支えが、なくなっちゃうじゃない…。私に頼りっきりってのも困るけど…そんな寂しがってるこなた…みたくないよ…。こなたには、寂しさを隠すためじゃなくて、寂しさを乗り越えて、本当に心から笑っていてほしいんだよ…」 「かがみ…」 こなたがちょっと真面目な顔になる。 「あのさ…そいじゃきくけど、かがみ自身の支えって…何?」 「…え?」 私の支え。 そんなことはわかりきっている。 「何言ってんの。私が支えた人が、私なしでも生きていけるようになったら、それが何よりよ。今はこなた。あんたがそれだけどね」 「そう…。ならいいんだけど…。私よりかがみの方が無理してたりするんじゃないかなって…。さっきもさ…私の想いが強すぎてどうにもならなくなったとき、かがみ、私には離れていてほしいって思ってたのに、私を落ち着かせるために、躊躇なくキスしてくれたり、その…身体、差し出したりしてくれたよね?私には辛くなったらそんなふうにかがみがいてくれるけど…かがみには…」 「バカにすんじゃないわよ。そんなに私は弱くないつもりよ」 そうだよ。 こなたが私のもとから去っていく。そう考えたとき、私はどう感じる?こなたが寂しい気持ちを抱えたままどこかへ行ってしまったら、私はそれをずっと引きずるだろう。私に何かしてあげられたことはあったんじゃないか、こなたが寂しさを乗り越える手助けをできたんじゃないか、とずっと考えてしまうだろう。 でも、こなたが私を必要としなくなってからお別れしたらどうだろう。きっと、悔いはない。こなたがちゃんと自分で自分を支えられるようになった姿を見たら、私はもうそれだけで嬉しい。私がこなたをしっかり支えてあげられた、こなたはもう一人で大丈夫だ、そう実感できたときが、何よりの私の支えになるだろう。 それは確かに私にだって寂しく思うときはある。一人きりでいると、皆と一緒にいたい、なんでもない話題で盛り上がったり、冗談言いあったりしたいと思うときはある。でも、誰かを支えるっていうのは、一人きりでやることじゃない。その相手と一緒の時間を過ごすってことだ。その結果、私の力でその人が何かを克服できたり、悩みを解決できたりするなら、私が一緒にいられた意味があったということになる。そこには、私が寂しさを感じる余地なんてない。支えてる相手に入れ込んじゃったりするあたり、まだまだ私も修行が足りないとは思うけど。ん…だけど、こなたなら…いいのかな…。それは…これから考えることにしよう。 「だから、とにかくあんたがしっかりしてくれるのが一番なんだから。今は余計なことは考えないで、そこだけに集中しなさいよ」 「うん…。わかった。かがみがそれでいいんだったら、私、がんばってみるよ」 それでいいんだよ。 それでいいんだよ。 そうしてくれないと、本当に、困るんだから。 「かがみ…その…これからも、よろしくね?」 こなたが右手を差し出してくる。 その手をそっと握り返す。 「こちらこそ、よろしく。期待してるんだからね?」 「うん!」 こなたは満面の笑みで、頷いてくれた。 6 「おはようございます、泉さん」 「みゆきさん、おはよー」 「あ、かがみさんとつかささんもご一緒でしたか。おはようございます」 「おはよう、みゆき」 「おはよ、ゆきちゃん」 月曜日。朝、私たちは久しぶりに四人で机を囲んだ。 もう来ないと思っていた風景。 あの日、私の手で終わらせる筈だった風景。 それを目にして、これでよかったのかな、とちょっと思う。 けど、それはこなたのため、自分のため、と言いながらどこかに思い描いていた虚像だっただけのかもしれない。 本当は私はどう思っているんだろう。 それは、簡単なことだ。 今、心いっぱいに満ちている、この思いが答えだ。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-08-22 20 33 32) くどい。 -- 名無しさん (2010-10-07 15 13 24) やっぱ普通に考えると百合って難しいよなぁ…ありがとうございました -- 名無しさん (2009-04-14 22 23 15) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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「おはよーこなちゃん、お姉ちゃん!」 「おはようございます!お姉ちゃん、かがみ先輩!」 「やぁつかさ、ゆうちゃん、おはよ。ふぇ・・・はっくしゅんっ!」 はぁっと吐く息は白く空に消えていく。耳や頬は冬ならではの冷たさだ。 センターまで、あと1週間。なんだかソワソワする。けど、私はそれとは関係なくフワフワした感覚でいる。 「ホラ、こなたっ!マフラー忘れてるわよ。大事な時期なんだから、気を付けないと!」 全く、と悪態をつきながら私はこなたの首にマフラーをまく。あぅあぅ言いながら巻かれているこなた。 こいつは以外にしっかりしてると思えば、こういうところでだらしない。そこは3年目でも変わらないなぁ。 「ふふっ。かがみ先輩、奥さんみたいですね。」 「あぁ、確かにそうかも。お姉ちゃんとこなちゃん、段々恋人らしくなってきたね。」 ・・・妹よ。その純粋で天然な所は長所でもあり、短所でもあるのよ?自覚してくれ。 とかなんとか考えていても、鼓動は早くなる一方。頬も耳も冬なのにぽかぽかだよ。 「な、何朝っぱらから恥ずかしい事言ってんのよ!?ほらさっさと行くわよっ!」 「ぐぇ。か、かがみ・・・マフラーひっぱんないで・・・」 「つかさ先輩?」 「なぁに、ゆたかちゃん?」 「かがみ先輩って可愛いですね。」 「うんそうでしょう?かぁいいよね?」 「外野うるさいわよっ!」 何故朝からこんな恥ずかしい目にあっているのか。それはクリスマスが始まり。 あの日、私とこなたは、所謂恋人同士になった。その証はこなたの右の手首にある。 我ながらちょっと恥ずかしい。でも、幸せ。右手首の紫と青の螺旋を見るだけで胸が温かくなる。 きっとこれがフワフワした気持ちの正体。好きっていうトクベツな感情。 「ふふっ。」 「何?どうしたのかがみ?」 無意識のうちに笑みがこぼれてしまう。全くたるんでるなぁ、私。ちょっとらしくないかな? 「なんでもないわよ。」 冬の青空は眩しくて綺麗だ。肌に触れる空気も澄んでいる。私は一つ深呼吸。 「さ、行きましょ、こなた。」 「うん、かがみ。」 「あ、置いていかないでよお姉ちゃん!」 「待ってくださーい!」 今日も始まる、同居人兼恋人との大切な優しい日。 ☆☆☆☆ 「・・・ちゅうワケで、ってもう時間やな。ほな今日の授業はここでしまいや。お疲れさん。」 黒井先生の言葉と同時に響き渡るベル。ちなみに私の腹時計も、ぐーっとベルが鳴る。 「おっ、なんだー柊ぃ。腹鳴らしてさ。ま、私もめちゃくちゃ減ってるけど。」 「もし良かったら柊ちゃんも一緒に寄り道でもどう?」 「んー・・・んじゃお言葉に甘えます。ほら日下部も早くしなさいよ。」 八重歯が可愛らしく光る日下部と今日も菩薩のような笑顔の峰岸。 高校3年間、ずっと同じクラスだ。付き合いだけならこなた達よりも長い。 それだけに、この2人には気が許せるし、とても安らげる場所でもある。 「そういえば最近泉ちゃんとどう?」 「そーだそーだ!!付き合い始めてだいたい2週間ぐらいだろ?」 むぐっ、とむせてしまう私。最近こんなんばっかな気がする。なんなんだ。これが付き合い初めの洗礼なのか? 私達が付き合っている事を知っているのはごくわずかの人だけである。 やっぱりどこかで背徳感や知られたくないっていう気持ちがあるのかもしれない。 覚悟はしていた。幸せになる為なら大丈夫、なんでもやる。でもいざとなると、なんとなく切ない。 だからなんの気兼ねもいらずに話せる人達にはとても感謝している。無論、この2人も例外じゃない。 「まぁ、普通なんじゃない?来週センター試験だから遊びにはいけないけどさ。」 「ふーん。って普通じゃ面白くねーだろ。なんかないのかよ?こうさ・・・」 「べ、別に面白くなくてもいいでしょーが!」 「そうね。確かに普通って簡単に見えて難しい事よ、みさちゃん?私はいいと思うよ、普通って事。」 峰岸はふわりと笑っている。特別になっても、普通でいる。今の私にずしりと響く言葉。 特別になったのに。せっかく勝ち取った特別なのに。あまりに普通すぎる『特別な日々』。 「そんなもんかねー。ノロケの一つでも聞かせてくれてもいいのにさ。」 「・・・そのノロケがないから困ってるんじゃない・・・」 「え?」 「なに?」 ☆☆☆☆ 今までのような普通な毎日が嫌なワケじゃない。むしろ峰岸の言うように普通って大切な事。 それでも、やっぱり夢はみちゃう。手をつないだり、どこか遊びに行ったり、2人だけで過ごしたりしたい。 ワガママなのは分かってる。それでも私はさらなる幸せを求めてしまう。 「なるほどなー。でも別に悩みって程じゃないんじゃね?」 「柊ちゃん、その事泉ちゃんに話したの?」 「うーん・・・ここからが本題というか・・・」 「どいうことだよ?」 「・・・ホントにこなたは、私の事、好きでいてくれてるのかなって。」 「は!?」 「・・・」 「聞けないのよ、怖くて。拒絶されるんじゃないか、ホントは・・・同情で付き合ってるんじゃないかなって。」 こんなに私は弱かった。強くなったつもりだったのに、こなたと肩を並べてるつもりだったのに。 自分が嫌い。こなたを信じてあげられない自分、普通に満足できない自分、強くなれない自分。 「なら、もう一度泣き虫に戻る?柊ちゃん。」 「あ、あやの・・・」 「・・・泣き虫?」 「『前』の柊ちゃんは泣き虫でも、諦めなかった。追いかけて追いかけて、未来を掴んだ。」 泣き虫。追い掛ける。未来。諦めない。そういわれてズキッと痛む胸。 峰岸の目に、雫石が見えた。その姿が強くて、自分にないものを持っているようで。 「本当の強さ、そんなの言葉遊び。大切なのは意志じゃないかな? 犯した過ちを取り戻そうと堅い意志であがく。それが柊ちゃんの力。」 意志。足掻く。そうだ、そうだ。忘れてた。アホだ、私。やっぱりたるんでた。 「それを忘れないで、柊ちゃん。柊ちゃんの力は柊ちゃんにしかないものだから。」 「・・・私、行かなきゃ。こなたの所に、行かなきゃ・・・」 「・・・仕方ねーな。私達の事はいいから早く行けって!」 にかっと笑い、背中を叩かれる。ちょっと痛いけど、逆にそれが嬉しかった。 「ありがと、日下部。ありがとう、峰岸。危なく見失うトコだった。今度、何かおごるね。」 「いってらっしゃい、柊ちゃん。」 校舎から見える夕焼け。朝の眩しさとは違うもの。それを背に私は走る。大好きな、あいつの元へ。 「・・・行っちまったな。」 「大丈夫よ、きっと。『今』は大丈夫。柊ちゃんと、泉ちゃんなら。」 ☆☆☆☆ 夕暮れ。冬なので暗くなるのが早くなっている。それでも空は紅色に染まり、世界をも染めている。 校門を出たところである後ろ姿を見つけた。その後ろ姿は小さい。青い髪が紅と混じり、ゆらゆらゆれている。 「こなたっ!」 「あ、かがみ。さっきC組覗いたらみさきち達といたからてっきり・・・」 「あれ?つかさとみゆきは?」 「黒井先生に用事があるみたいで、先帰ってて、だってさ。」 「そっか・・・」 「なんか、久しぶりだね、かがみと2人で帰るの。」 ニヤニヤっと笑っているこなた。なんか心を読まれているようで悔しい。 色んな意味で、ドキドキしている私の胸。下手したらミサンガを渡した時よりも。 「そ、そうね。最近は皆で勉強して、その後帰ってたしね。」 「あと1週間でセンター試験か・・・早いね。てかもう卒業だよ!?」 「確かに。あんたと住み始めて3年、か。」 そうだ、あれが始まりだった。ドアを開けたら、こなたがいて。あの日からもう私は惹かれていたんだ。 「色々あったねー。風邪引いて看病して貰ったし。料理の腕も上達したね、かがみん?」 2人で過ごした毎日。笑いあって、ふざけあって。たまに喧嘩したり、怒ったり、泣いたりした。 何も変わらない。今の特別だと思ってる日も、前の日常も、同じ。 「それを言ったら、あんただって。最初は全然つれなかったのに、今じゃこんなんだしねー。」 「こんなんって!失礼なかがみん!」 私は分かってなかった。特別な事なんて何もない。私達はずっと私達。 こなたが、私をどう思ってるかなんて、分からない。でも、私はこなたが、好き。 「あはは、うそうそ。冗談よ。こなたは成長したわ。私が保証する。一番近くにいた私がよ?」 「むぅ。ちょっと照れるじゃないか。・・・ありがと、かがみん!」 こなたの思ってる事、どんな事も受け入れよう。受け入れて、悩んで、足掻いて私は進む。こなたと幸せになる為に。 後悔しないように、させないように、私は進み続けよう。歩き続けよう。これが、私の力。 「ねぇ、こなた?」 「なんだいかがみん?」 ☆☆☆☆ 「やー、買った買った。久しぶりのゲマズだったから奮発しちゃったよ。おかげでもう7時過ぎちゃったね。」 「ま、でもいいんじゃない?息抜きも必要だし。私もなんだんだで楽しかったし。」 町は夜の闇で覆われている。それでも月と星達が煌めいている。美しく、強く、この世界を照らす。 「ありがと、かがみ。誘ってくれて。」 「あ、いや・・・その・・・」 「実はさ、前々からどこかに行こう、一緒に2人で帰ろうって誘おうと思ってたんだ。」 「え?」 「んー、でもさ・・・なかなか言いだせなくて・・・」 頬っぺたを照れるようにかくこなた。こなたの頬が夜でも分かるぐらい紅潮してる。 「なんと言うか・・・んー、怖かったんだよね。本当に付き合ってるのか、かがみは私の事、本当に好きなのかなって。」 あれ?どこかで聞いたことがあるようなセリフだ。こなたは申し訳なさそうに苦笑いしている。 「でもさ、やっぱ違うよね。私達の関係が変わっても、かがみはかがみ。ずっと一緒にいたかがみ。」 それでも力強い瞳。そして凛とした表情。やっぱりこなたはこなただ。私の大好きなこなた。 「私の大好きなかがみ、だよね。だから私は受け入れられるよ。今までみたいに、ね。だから・・・」 あぁ、そういえば、まだ言ってなかったな。焦りすぎて、テンパっててあの時言えなかった言葉。 「好きだよ、こなた。」 「・・・え?何て?」 特別な日々が、日常へ。これが私達なんだ。2人で見失ってた普通。でも、もう大丈夫だよね。 「は、恥ずかしいんだから、あと1回しか言わないからねっ!」 「・・・うん、聞き逃さないよ、かがみん?」 うーん、余裕な表情がちょっと悔しい。やっぱりこんな感じが、私達にはお似合いなんだ。 「・・・大好き、だよ。」 「私もだよ、かがみ。」 大切で、かけがえのない、この普通。2人でなら守れる。ううん、守ってみせるよ。 満月の夜に、美しく映えるこなたの笑顔。ずっとずっと傍にいよう。毎日毎日、笑いあおう。 「さ、ほら。さっさと帰って勉強するわよ!」 「あー、待ってよかがみ。」 私達は歩き出す。どちらともなく握る手。温もりと、幸せを胸に私達は歩く。 長く、辛い道のりかもしれない。それでも、私達は止まらない。手をつないで歩いてゆく。 ゆっくり、ゆっくりと。 ☆☆☆☆ コメントフォーム 名前 コメント ほんとっ、こなかがって言うジャンルに出会えて良かった GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-04 23 52 51) こなかが最高! -- 名無しさん (2017-12-26 21 29 39) なんで私の顔、こんなニヤけてるのッ! -- ぷにゃねこ (2013-01-25 17 29 02) 最後の最後まで魅せてくれました! ありがとうございます! -- 名無しさん (2012-11-19 16 11 09) こなたかがみセンターガンバ! -- かがみんラブ (2012-09-17 06 19 57) あふぅ! かがみん萌えヽ(;*´ω`)ゞ -- かみのまにまに (2010-04-23 10 01 30) 888888 -- 名無しさん (2009-11-21 14 03 54) 感動しました!こんなステキな作品に出合えてよかったです これからも頑張ってください -- saori (2009-07-12 12 43 58) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)